2021 Fiscal Year Research-status Report
強相関ディラック電子系のバンド間磁場効果に関する実験的研究
Project/Area Number |
20K03869
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Research Institution | National Institute for Materials Science |
Principal Investigator |
鴻池 貴子 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 国際ナノアーキテクトニクス研究拠点, 主任研究員 (70447316)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ディラック電子 / 軌道反磁性 / バンド間磁場効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,圧力下でグラフェンと同様の線形分散を持つことが知られている有機導体alpha-(BEDT-TTF)2I3を対象として圧力下磁化率とホール伝導度測定を行い,ディラック電子系特有のバンド間磁場効果による巨大軌道反磁性とバンド間ホール効果を実験的に検出し,その効果と関連性を明らかにすることを目的としている.本物質では,グラフェンとは異なり強相関電子系が形成されていることから多様な相図が得られ,圧力制御によって電荷秩序相・有限質量のディラック相・質量ゼロのディラック相を網羅的に研究できる.この特性を生かしてグラフェンとは異なる独自の方向性を持つディラック電子の研究を行う. 我々は現在までに上記3つのすべての相において反磁性を観測し,バンド間磁場効果による軌道反磁性によるものと考えていたが,最近になって試料の一部が超伝導を示すbeta-(BEDT-TTF)2I3に構造変化している可能性が浮上した.一方,近年類縁物質のalpha-(BETS)2I3において常圧下でディラック電子系が形成されることが示され,SQUIDによる静磁化率測定により伝導面に垂直磁場を印加した際に反磁性が観測されることが報告された.そこで,本年度はalpha-(BETS)2I3の磁気トルク測定を行い,本物質の磁性を検証した.その結果,トルクカーブの振幅が大きく温度変化することが分かり,多結晶を用いた静磁化率の測定結果と定性的に一致する結果が得られた.また,本物質では50 Kで金属絶縁体転移が起こるが,その起源は未だ解明されていない.今回の磁気トルク測定により50 Kでトルクカーブの振幅が急激に変化する事が分かり,この転移が磁性に関連するものである事を明らかにした.さらに3.5 K以下で複雑なトルクカーブが観測されることが分かり,磁気秩序の形成を示唆する初めての実験的証拠を得た.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
我々は現在までにalpha-(BEDT-TTF)2I3の電荷秩序相・有限質量のディラック相・質量ゼロのディラック相のすべての相において反磁性を観測し,観測された反磁性はディラック電子系特有の軌道反磁性として理解できると考えていた.しかしながら最近になって観測された反磁性が試料の一部の構造変化によるものである可能性が出てきた.そこで,研究計画時には想定していなかったが,近年常圧下でディラック電子系が形成されることが示唆されている類縁物質のalpha-(BETS)2I3に焦点を当て,磁気トルク測定により本物質の磁性についての研究を行った.その結果,本物質においてトルクカーブの振幅が大きく温度変化する事が分かった.この結果は,低温に向かってディラック電子による軌道反磁性の寄与が大きくなることに対応している可能性がある.また,本物質の50 K以下の絶縁相が磁性に関連しており,3.5 K以下で磁気秩序が形成されていることを初めて明らかにした.強相関のディラック電子系では反強磁性秩序が形成されることが理論的に示されており,本結果と関連していると考えられる.これらの結果はすでに論文にまとめ受理されている(T. Konoike et al., J. Phys. Soc. Jpn. 91,043703 (2022)).
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では,圧力下でディラック電子系が形成される有機導体alpha-(BEDT-TTF)2I3を対象として圧力下磁化率とホール伝導度測定を行い,ディラック電子系特有のバンド間磁場効果による巨大軌道反磁性とバンド間ホール効果を実験的に検出し,その効果と関連性を明らかにすることを目的としている.現在までにすでに圧力下磁化率測定により反磁性が観測されることが分かっていたが,最近になって試料の一部の構造変化(超伝導を示すbeta型)による寄与が懸念され,反磁性の起源を再考する必要が生じた.今後はbeta型の超伝導が確実に抑制される,さらに高圧下での磁化率測定を行い,ディラック電子に由来する軌道反磁性の検出を改めて試みる(より高い圧力を実現するため試料を封入するテフロンセルのサイズを小さくする).反磁性が確認された場合は,本来の研究計画に沿ってalpha-(BEDT-TTF)2I3の圧力下磁化率,ホール抵抗を系統的に測定し,バンド間磁場効果特有の振舞いの実験的検証と磁化率・ホール効果の関連性を明らかにしたい.また反磁性が観測されない場合はその理由の考察を行うとともに,新たな検出手法の開拓や常圧下ディラック電子系のalpha-(BETS)2I3に焦点を当て研究を進める.
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症対策により学会や研究会がすべてオンライン開催となり,旅費が不要となったため.今年度は本研究課題の最終年度となるため,この繰越金を用いて国際会議を含む多くの学会に参加し研究発表を行う.また,研究計画時に想定していなかったが,これまでより高い圧力下での測定が必要となったため,圧力装置の設計を変更し,新たな加圧装置の作製費用にあてる.
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Research Products
(4 results)