2021 Fiscal Year Research-status Report
絡み合いモデルの分子動力学シミュレーションと絡み合い抽出による基礎付け
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20K03876
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Research Institution | Yamagata University |
Principal Investigator |
瀧本 淳一 山形大学, 大学院有機材料システム研究科, 教授 (50261714)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
SUKUMARAN S.K. 山形大学, 大学院有機材料システム研究科, 准教授 (70598177)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 絡み合い高分子 / レオロジー / 界面スリップ / 摩擦低減 |
Outline of Annual Research Achievements |
高分子液体のレオロジーは、これまで主に分子鎖間の絡み合いの存在とその運動を仮定したモデルで理解されて来たが、絡み合いの生成・消滅過程を含め、微視的な理解は不十分である。また、高速流動下になるほどモデルに含まれない微視的詳細が重要になってくる。本課題では微視的なMDシミュレーションによりこれらの問題を研究している。 (1)2種の高分子A,Bをブレンドすることは高分子材料の高機能化で頻繁に用いられる。A,B相溶ブレンドにおいては、ランダムに絡み合うと仮定した場合よりAB間の絡み合いが多いことを見いだした。さらに、AとBが非相溶の場合、流動下ではAB間の界面スリップが生じ、これが成形不良等の原因となる。我々は、シミュレーションにより界面スリップを再現することに成功しており、界面付近での絡み合いと、それがスリップへ及ぼす影響を調べている。 (2)ずり流動下では分子鎖は回転運動をするが、絡み合いがあまり多くない範囲では絡み合いが回転に影響しないこと、流動下で強く配向した分子が時々折りたたまれて回転することにでそれが理解出来ることを見いだした。 (2)高速流動下での粘度低下、特に定常伸長粘度の低下を説明するため、流動下では分子鎖の伸長・配向するため分子鎖間の摩擦が低減する、というアイデアが提案されている。摩擦低減は絡み合いが無くても生じるはずなので、絡み合いの無い系を中心にシミュレーションにより検証することを進めている。今年度は伸長流動を調べ、シミュレーションでも実験と同様に高ひずみ速度で定常伸長粘度が低下することを確認した。また、ずりおよび伸長流動停止直後の応力緩和が、停止前の流動速度の増加と共に加速することも確認した。これは摩擦低減の考えと定性的には一致するが、定量的な一致を得るのは難しく、摩擦低減理論の改良が必要と考える。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
MD(分子動力学)シミュレーションのスナップショットから、絡み合い抽出(PPA)によりその時刻における絡み合い構造(どこでどの分子がどの分子と絡み合っているか、など)を得ることは出来る。しかし、時間的に連続するスナップショットを用いても、抽出される絡み合い構造は不規則・不連続な変化を含んでおり、個々の絡み合いの生成・消滅を詳細に追跡することはかなり困難であることが解ってきた。 そこで、シミュレーションで得られる絡み合いに関する微視的情報として、相溶ブレンド中での絡み合いや、非相溶高分子間の界面付近での絡み合い等を研究し、新しい知見も得ている。特に界面での絡み合いは、成形加工不良の原因ともなる界面でのスリップに関係するが、これをMDシミュレーションで調べた例は殆ど無い。そこで、まずスリップ現象をMDシミュレーションで再現することを試み、まだ絡み合いの少ない系でのシミュレーションではあるものの、応力とスリップ速度の関係を得ることにも成功している。 もう一つの課題として、当初計画には無かったが、近年重要性を増している高速流動下での分子鎖間の摩擦低減にも取り組んでいる。流動が高速になるほど、スリップリンクモデル等の粗視化モデルでは扱えない絡み合いセグメント内の微視的状態が重要になり、MDシミュレーションが有効になると期待されるからである。今年度は、任意の大ひずみまでシミュレーション可能な新しい境界条件を用いて定常伸長粘度を調べ、実験と符合する結果を得ている。また、ずりおよび伸長流動停止後の応力緩和を調べ、摩擦低減理論と矛盾しない(が完全に説明することも出来ない)結果を得ている。
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Strategy for Future Research Activity |
A,B2種の高分子の相溶ブレンド中の絡み合いについて、A,BをそれぞれKremer-Grest(KG)モデルで表し、ABモノマー間の相互作用を変化させて相溶性を変化させたブレンドを複数準備して、A-A, B-B, A-B間の絡み合い数が相溶性にどのように依存するかを明らかにしていきたい。また、ブレンド比を変化させ、絡み合い点間重合度に関するブレンド則が、相溶性により異なるかどうかも検証する。 非相溶なA,B高分子間の界面での絡み合いとスリップについては、今年度より重合度大きいKGモデルを用い、界面付近での絡み合いの空間分布とその流動による変化、およびスリップとの関係を調べていく予定である。具体的には、モノマー間相互作用を変化させ、モノマー濃度で見た界面厚さ、界面付近での絡み合い密度、および流動下でのスリップ領域の厚さ・スリップ速度などが、相溶性や応力にどのように依存するかを明らかにしていく。また、ABジブロック共重合体を導入することで、界面スリップの制御(あるいは抑制)が可能かどうかも調べる予定である。 高速流動下での摩擦低減については、昨年度までに(a)短くて絡まない系、(b)(分子鎖のすり抜けを許して)長くても絡み合わない系のずり流動、および(a)の伸長流動を調べた。ずり流動の結果からは、(b)の場合は摩擦低減の考えがかなり有効で、(a)は(分子鎖が短いことによる)伸びきりの効果を加えると理解出来る可能性があるが、いずれも分子鎖の伸びが摩擦低減の予測より小さい(blob理論の方が良く合う)、という結果になっている。今年度は(b)の伸長流動を調べ、さらに(c)長くて良く絡み合った系を計算対象に加える予定である。これらの結果から、摩擦低減およびblob理論の適用可能性を明らかにしていく。
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Causes of Carryover |
学会がオンラインあるいは中止となっているため、旅費の支出が無かった。 翌年度分と合わせることで、シミュレーション用計算機を購入する予定である。
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Research Products
(2 results)