2021 Fiscal Year Research-status Report
Molecular mechanism of extreme environmental resistance revealed from structural properties of proteins embedded in sugar glass
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20K03878
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
平井 光博 群馬大学, その他部局等, 名誉教授 (00189820)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中川 洋 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 原子力科学研究所 物質科学研究センター, 研究主幹 (20379598)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 糖 / 極限環境耐性 / ガラス転移 / 蛋白質 / 中性子散 / 放射光X線散乱 / 食品保存 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,極限環境(低温・乾燥など)耐性生物が「適合溶質」として含蓄する糖の役割の分子機構の解明を主たる目的とする。例えば,極限環境に於ける動物の耐性(クリプトビオシス)として,クマムシ,ワムシ,ネムリユスリカなどの昆虫がよく知られており,いずれも乾燥状態や低温状態などの極端環境に於いて,水に代わって生体成分や細胞膜などを保護する「適合溶質」として糖(トレハロース)を蓄積して代謝活動を停止すること(冬眠,乾眠)で生き延びる。このような環境耐性機構として,「ガラス状態説」(糖によるガラス化に伴う細胞膜やタンパク質などの高次構造の保護),「水置換説」(結合水の代理をする糖による直接的な水素結合),それらの複合的作用の関与,などの説が有るが,何れも分子構造レベルでの研究例は殆どないためその機構の詳細は不明である。また,ES細胞やiPS細胞の応用展開において,細胞生存率が高い細胞ガラス化保存液の開発が重要であり,糖類,糖アルコール,ポリエチレングリコール,ポリビニルピロリドンなどが使用されている。特に,トレハロースおよびスクロースは,ガラス化促進物質として使用されているが,細胞膜やタンパク質そのもの対する保存液の効果に関するナノスケールレベルでの構造物性の知見が明らか不足している。さらに,食品加工・保存において,温度・水分含量に依存して糖質は様々な物理的性状変化(結晶化,融解,ガラス転移,包摂複合体形成など)を示し,食品の品質や保存を決定付けている。中でも,ガラス転移状態の制御の重要性が認識されつつある。 本研究の実施により,極限環境生物学や食品科学など様々な学術分野で未解決となっている「糖ガラスの構造物性」をナノスケールレベルの構造観測が可能な放射光X線と中性子線の相補利用によって,極めて低い含水率の糖ガラス中のタンパク質構造が安定に長期間保持戯れることをすでに見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和2,3年度は,主に,各種の糖ガラス試料を作成し,放射光X線散乱測定と中性子散乱測定を実施した。ガラス転移温度は含水率と温度,糖の種類に依存することを見出し,ガラス化条件探索を行った。5種類(単糖:グルコース,フルクトース,マンノース,二糖:スクロース,トレハロース)の糖ガラスの構造,それに包含された8種類のタンパク質の構造の安定性を詳細に検討した。 その結果,糖のガラス状態に包含されたタンパク質の構造が,溶液中と比較してよりコンパクトな状態で安定化されること,その状態が長期間保存されることを見出した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究は概ね予定通りに進捗している。 今年度は最終年度となるが,タンパク質のほか,脂質膜を用いた放射光X線・中性子散乱測定のほかに,熱測定を実施し,糖ガラス転移とタンパク質・脂質膜の構造安定性に関してより詳細な検討を行う。 また,得られた研究成果を学術論文として発表する。
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Causes of Carryover |
研究は概ね予定通りに進捗していたが,新型コロナウィルスの影響により予定されていた学会,シンポジウムが全てWeb開催となったため,出張経費に残額が生じた。 令和4年度に繰り越して使用する予定である。
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