2021 Fiscal Year Research-status Report
拡張アンサンブル法と液体論を結合したタンパク質の第一原理三次構造予測法の開発
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20K03879
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
三浦 伸一 金沢大学, 数物科学系, 教授 (10282865)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 拡張アンサンブル法 / ハイブリッドモンテカルロ法 / マルチカノニカルアンサンブル / 3D-RISM理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和3年度は,シニョリンと呼ばれる小さなタンパク質をとりあげて,そのフォールディングに関する熱力学的な性質を調べた。拡張アンサンブル法を用いることにより天然状態に対応する折りたたまっている構造から空間的に広がっている変性状態までを広くサンプリングした。計算には研究代表者のグループで開発したレプリカ交換マルチカノニカル一般化ハイブリッドモンテカルロ法を用いた。また,水溶液環境はgeneralized Born surface area (GBSA)法により記述した。シミュレーション結果を用いてWHAM法およびReweighting法によりカノニカル集合に従う系の熱力学量を計算することができる。内部エネルギーやそのゆらぎである比熱の温度依存性を詳しく調べた。特に比熱はある温度でピークをもち,相転移様の振る舞いを示すことがわかった。この転移温度は実験で求められている折りたたみ転移の温度と良い一致を示した。また,実験から得られている構造と比較することにより,転移温度より低温側の構造は天然状態のものであることを確認した。このことは、この温度領域では天然状態が自由エネルギー最安定であることを意味している。さらにエネルギー地形の様相を明らかにするために、トラジェクトリーに沿って,構造のエネルギー極小化を行った。得られた固有構造を平均二乗偏差によりグループ分けした。興味深いことに固有構造グループのうち溶媒和自由エネルギーを含むエネルギー最小構造のグループは天然構造とは異なるものであった。このことは,シニョリンの場合は,天然状態はエントロピーの効果により安定化されていることを示している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では溶媒の記述は連続体モデルではあるが、シニョリン分子のフォールディングシミュレーションを実現することができた。また、研究の過程でマルチカノニカル計算をする場合のマルチカノニカルウェイトを精度よく決定することが極めて重量であることがわかった。当初から想定されていたことではあるが、精度が悪いとサンプリングに関する問題がほとんど解消されない。このあたりの問題に対する技術的な対処法も蓄積することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究をもとに今後は水溶液環境の記述を3D-RISM理論により行う方法を構築する。連続体モデルのマルチカノニカル計算から得られた構造に対して3D-RISM計算を行い、Reweightingすることにより、3D-RISMベースのカノニカル平均と整合する計算をすることができる。この手法をシニョリンに適用し、その有効性を調べる。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により参加を予定していた学会等がオンラインによる実施となり、旅費等に余剰が生じた。この分と翌年度分を併せてコンピュータを購入し、本研究課題の一層の推進に資する。
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