2021 Fiscal Year Research-status Report
Variety of the memory retention ability in the memory effect of paste
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20K03886
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
中原 明生 日本大学, 理工学部, 教授 (60297778)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
狐崎 創 奈良女子大学, 自然科学系, 教授 (00301284)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 記憶効果 / レオロジー / 破壊の制御 / 塑性流体 / コロイド |
Outline of Annual Research Achievements |
粉と水を混ぜた高濃度コロイドサスペンション(ペースト)は己の動きを記憶し、その記憶に従って乾燥させた時に割れやすい方向が決まる。揺れを記憶した場合は揺れに垂直に割れやすくなり、流れを記憶した場合は流れに平行に割れやすくなり、磁場を記憶した場合は磁場に平行に割れやすくなる。 令和2年度までの研究でペーストを流す流路にスリットがある場合はスリットの前後で亀裂パターンの転移が起こることを報告したが、令和3年度の研究により、条件によってはその転移にヒステリシスが観測されるものがあることが分かった。具体的には、スリット通過前は流れに平行に割れやすく、スリット通過後はどこまで流れても流れに垂直に割れやすいままで、スリットを通過したという過去のヒステリシスが強く残ることが分かった。一方、揺れを記憶する状態のペーストを注ぎ込んでゆっくりとスリットを通過させると、スリット通過前は移動方向に垂直に割れやすく、スリット通過後は移動方向に平行に割れやすくなること、さらにスリット通過後にある距離移動すると再び移動方向に垂直に割れやすくなることが分かった。この結果は、揺れの記憶と流れの記憶は元々割れやすい方向が90度異なるが、スリットを通過することで割れやすい方向がお互いに入れ替わること、さらに、流れの記憶でできる構造は揺れの記憶よりもはるかにヒステリシスが強いことを示している。今後はミクロな構造解析を行い、揺れと流れの記憶の構造の違いと転移現象のメカニズムを解明していく。 ハンガリーの破壊理論の研究者との共同研究においては、揺れを記憶し異方的な亀裂パターンを生じるペーストの乾燥破壊のシミュレーションを行なったところ、乾燥破壊の初期段階では揺れに垂直に亀裂が走り、中期段階では初期亀裂と垂直な方向に亀裂が走り、後期段階では亀裂がネットワークを構成して亀裂パターンが形成されるなど実験結果の再現にも成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では揺れの記憶と流れの記憶の構造の違いを解明するためにペーストを流す流路にスリットを設置する実験を行った。その結果、スリット通過前は流れに平行に割れやすい構造だったペーストがスリット通過後は流れに垂直に割れやすくなること、さらに、スリット通過後も長い距離を流れても流れに垂直に割れやすいなど強いヒステリシスが確認された。一方、揺れを記憶できる状態のペーストをゆっくりと流してスリットを通過させると、スリット通過前は移動方向に垂直に割れやすく、スリット通過直後は移動方向に平行に割れやすくなるが、すぐに移動方向に垂直に割れやすい状態に戻ることが確認された。この結果は流れの記憶の方が揺れの記憶よりも強いヒステリシスを持つ構造になっていることを示しており、更なる解明のためにはミクロな構造解析が必要であるが、コロナ禍のこれまでの状況では研究のためのSPring-8などへの出張測定が難しく、ミクロな構造の解析は次年度に繰り越すことになった。 本研究はハンガリーの破壊理論の研究者との共同研究でもある。日本側の実験データを元にハンガリー側の研究者が揺れを記憶したペーストの乾燥破壊のシミュレーションを行なったところ、乾燥破壊の初期段階では揺れに垂直に亀裂が走り、中期段階では初期亀裂と垂直な方向に亀裂が走り、後期段階では亀裂がネットワークを構成して亀裂パターンが形成されるなど実験結果の再現に成功した。次の研究目標としてスリット通過前後の亀裂パターンの遷移をシミュレーションで再現してメカニズムを解明するために、日本側の更なる実験結果を説明し議論しようと令和3年度にハンガリーへの渡航を計画していたが、これもコロナ禍の海外渡航制限のために実現できず次年度に繰り越すこととなった。 以上、新しい結果は得たもののコロナ禍での出張制限のために一部の研究計画が遂行できなかったので研究はやや遅れていると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
揺れの記憶から流れの記憶への転移現象の解明が本研究の大きな目標である。揺れの記憶と流れの記憶は割れやすい方向が90度異なるだけではなく、スリット通過前後の変化が逆になり、ヒステリシスの強さも異なるなど、その性質は大きく違っている。これらの要因の解明のためには、流れの記憶や揺れの記憶を司る構造のミクロな解析が必要となるので、SPring-8などでのX線CTを用いた非破壊構造解析や粒子シミュレーションが必要となる。令和4年度はX線CTを用いた非破壊構造解析を行うとともに、ハンガリーの共同研究者と連携して揺れや流れを記憶するペーストの乾燥破壊のシミュレーションを進めていく。 これまで揺れや流れと呼んでいたものは、正確に言うと、揺れとは振動であり、流れとは剪断流のことである。振動の記憶から剪断流の記憶への転移現象を理解するためには、引張試験機やレオメーターなどを用いて振動と剪断流の違いを連続的に定量化する実験が必要であり、そのための実験を開拓していく。
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Causes of Carryover |
本研究においてはハンガリーの破壊理論の研究者と共同研究を行なっており、日本側の研究によって得られた実験結果をハンガリー側の研究者がシミュレーションを行なって説明を試みる計画になっていた。そのため、2021年度は研究代表者の中原と研究分担者の狐崎と研究協力者の松尾がハンガリーに赴き、実験結果を詳しく説明する予定になっていたが、コロナ禍の影響でハンガリー渡航を延期せざるを得ない状況であった。それと同時に、コロナ禍で日本国内の出張も難しく、SPring-8でのミクロな非破壊測定も延期せざるを得ない状況になっていた。そのため、国内外の出張費用が次年度に繰り越さざるを得なくなってしまったが、次年度の令和4年度にはぜひそれらの計画を実施したい。
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Research Products
(5 results)