2020 Fiscal Year Research-status Report
レーザープラズマにおけるオージェ過程を用いた革新的X線波長変換技術とその高出力化
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20K03898
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Research Institution | National Institutes for Quantum and Radiological Science and Technology |
Principal Investigator |
岸本 牧 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 量子生命科学領域, 上席研究員(定常) (40360432)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
難波 愼一 広島大学, 先進理工系科学研究科(工), 教授 (00343294)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 水の窓軟X線 / レーザープラズマ / レーザープラズマ軟X線源 / 輻射流体シミュレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、レーザー生成金プラズマから放射される水の窓軟X線の学術分野や産業界への応用を目標として、オージェ過程を用いた革新的X線波長変換技術によってレーザープラズマ軟X線の高出力化・高効率化を図ると共に、金テープターゲットと高繰り返しレーザー装置を組み合わせた連続運転可能な高輝度軟X線光源の開発を目的としている。 本年度研究では先行研究(科研費基盤研究(C)、課題番号:17K05735)によって示された低圧窒素雰囲気下でのオージェ過程による水の窓軟X線増強メカニズム仮説を輻射流体シミュレーションにより再現することによって検証するために、トロイダルミラーを用いた斜入射分光器と軟X線ピンホールカメラ及び高速フォトディテクターを使用してレーザー生成金プラズマから放出される軟X線のスペクトル空間分布や軟X線放射強度とその時間変化を詳細に調べた。そしてそれら実験結果と輻射流体シミュレーションコードStar2Dによる計算結果の比較検討を行い、実験結果とシミュレーション結果の間で非常に良い一致を得ることができた。 さらに学術・産業分野での利用を意識した金テープターゲットシステム実用化を目指し、ターゲットの金薄膜の厚みと軟X線放出強度の関係を実験的に詳細に調べ、金薄膜の厚みを薄くしても軟X線発光量が変わらない最小の膜厚の特定を行った。 また、X線変換効率向上の新しい試みとして、ダブルパルスレーザーを用いた軟X線変換効率の改善を目指した実験を実施した。これは2台のパルスレーザー装置を同期させ、プラズマ生成とプラズマ加熱を別々のパルスレーザーで行うことによりレーザー生成金プラズマから放出される軟X線光子数の増強を図るというもので、プラズマ加熱のタイミングやレーザー照射強度を最適することにより軟X線発生量の増加を確認することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
窒素雰囲気下でのレーザー生成金プラズマからの水の窓軟X線放射増強現象のメカニズム解明、及び軟X線発生の高効率化のためには、数値計算シミュレーションによって実験結果を再現できるのか検証する必要がある。そのため輻射流体シミュレーションコード Star2D の構築を行い、ガス雰囲気なしの環境下でのシミュレーションコードの信頼性確認実験を行った。 その結果観測されたプラズマ中のイオン価数,発光形状、時間波形のいずれもシミュレーション結果とよく一致し、Star2D がレーザー生成金プラズマに対して再現性があることが確認され、レーザー照射条件の最適化に必須であるシミュレーションコードの開発に目処をつけることができた。 さらに厚さの異なる金薄膜ターゲットを幾つか用意し、レーザー照射強度を様々に変化させてX線発光強度の変化を詳細に調べ、金の厚みを薄くしてもX線発光量が変わらない最小の厚みの探索を行い、現在のレーザー照射強条件下での最適な金薄膜の厚さを決定することができた。 以上の研究成果は学術誌 High Energy Density Physics に掲載された。 また軟X線強度増強のための新しい試みとして、プラズマ生成用ナノ秒パルスレーザーとプラズマ加熱用ピコ秒パルスレーザーを用意し、この2台のパルスレーザー装置を同期させてプラズマ加熱のタイミングの最適化によって軟X線変換効率の改善を目指す実験を実施した。金プラズマへの加熱用パルスレーザーの入射タイミングと強度を色々変えて軟X線放射量の変化を調べた所、プラズマ加熱のタイミングを0~50 ns遅らせることにより軟X線放射量が増加することが分かり、2台のパルスレーザーを用いた軟X線変換効率改善法の有効性を示すことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究実施状況ではレーザー強度ごとの最適な厚みは確認できたものの、今回用意できなかった金の厚みでさらに強度が上がる可能性が示されたため、金レーザー生成プラズマからの水の窓軟X線放射のターゲット厚依存性に関して引き続き詳細な実験を行って最適な金膜厚を探索するとともに、実験結果と輻射流体シミュレーション結果との比較検討により Star2D シミュレーションコードの精度を高めていく。 さらに開発中の Star2D コードを用いて、水の窓域以外の波長域(例えば軟X線リソグラフィー用波長の6 nmなど)での軟X線放出増強を図ることができるかの検討をすすめて行く。 また本水の窓軟X線光源の学術・産業分野への将来展開を考えた場合、高繰り返しに対応可能なテープターゲットシステムが必要不可欠である。そこで窒素ガスを直接真空チャンバー内に導入する方式ではなく、テープ上にに窒化膜を形成し、更にその上から金薄膜をコーティングした新しいテープターゲットの実現可能性を検討する。
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Causes of Carryover |
コロナウイルス感染症の蔓延に伴い当初予定の広島大学での実験回数が減少したことにより、ターゲット材などの実験材料の消耗が少なかった。 今年度は政府のコロナウイルス感染症対策を遵守しながら広島大学での実験を積極的に進めていく。
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