2022 Fiscal Year Research-status Report
磁気面が壊れたコアからエッジにわたる領域のタングステン不純物輸送シミュレーション
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20K03908
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Research Institution | National Institute for Fusion Science |
Principal Investigator |
菅野 龍太郎 核融合科学研究所, ヘリカル研究部, 准教授 (30270490)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 確率論的モデリング / モンテカルロ法 / 新古典輸送 / タングステン不純物 |
Outline of Annual Research Achievements |
共鳴摂動磁場(RMP)により磁気面が壊れているエッジにおける不純物のクーロン衝突輸送に対して、磁場の3次元性と電場の効果に焦点を当てて引き続き研究を推進している。ここで、不純物の数密度は背景プラズマと比べ10万分の1以下であり、trace impurity approximationが成立していることを仮定している。最近の研究動向として、周辺領域における乱流現象が急速に注目を集めるようになり、本研究においても不純物輸送に対する乱流効果に関する考察が必要となってきた。そこで、準定常状態における背景プラズマの乱流などの集団現象による電磁場の時間的揺らぎの効果を不純物イオンの運動方程式における有限な大きさのノイズと解釈して扱う輸送モデリングの検討を行った。確率論の定理を応用することで、速度空間のみで不純物分布関数を考えた場合、分布の時間発展に有限な大きさのノイズが加えられても、まったく影響を与えないことが示される。これは、ある条件下で伊藤拡散過程と伊藤過程が法則の意味で一致することから言えるのであるが、粒子のブラウン運動的なランダムウォークを引き起こすクーロン衝突の効果からくる性質が、その結果と深く関係している。その理解の下で、速度空間だけでなく配置空間も考慮して、5次元位相空間における分布の時間発展を記述する運動論方程式に関しては、どのような影響を与えるのか、考察を行った。その結果、有限な大きさのノイズは、5次元位相空間における不純物分布関数のアンサンブル平均の時間発展に対して影響を与えないという理論的成果を得た。不純物輸送のモデリングに対する数理的な理解が進み、その理解に基づいて、コード開発を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題では、磁場が乱れた領域でも適用可能なドリフト運動論的シミュレーションコードKEATSをベースとして、不純物輸送を運動論的に扱うシミュレーションを確立し、LHDプラズマのストカスティック領域で観測される「コア領域への不純物流入を抑制する不純物スクリーニング現象」のLHDとは異なる磁場配位への普遍性を調べることを目標としている。令和4年度は、準定常状態における背景プラズマの乱流などの集団現象による電磁場の時間的揺らぎが想定される場合におけるドリフト運動論モデルの検討を行った。周辺領域における乱流現象の影響については、当初計画では、計算コストの観点から、扱わない予定であったが、最近の研究動向により、その影響に対する考察を行わないまま研究を進めることは、妥当とは言えない状況になった。その一方で、周辺領域において、乱流計算を行いつつ、不純物輸送シミュレーションを行うことは、膨大な計算資源が要求され、その実行は現実的ではない。そのため、不純物輸送に対してtrace impurity approximationが成立していることを仮定して、電磁場の時間的揺らぎの効果を不純物粒子の運動に対する有限な大きさのノイズとして扱うモデリングをドリフト運動論方程式に導入し、その影響を理論的に考察することにした。その結果、このようなノイズは、5次元位相空間における不純物分布関数のアンサンブル平均の時間発展に対して影響を与えないという理論的成果を得て、その理解の下で、本研究におけるシミュレーションモデルの位置づけを再定義した。不純物輸送のモデリングに対する数理的な理解が進み、その理解に基づいて、コード開発を進めているところである。
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Strategy for Future Research Activity |
令和4年度までに開発した時間的揺らぎの効果の確率論的モデルおよびモンテカルロ・ポアソンソルバをドリフト運動論的シミュレーションコードKEATSと組合せ、背景プラズマ(水素イオンおよび電子)の温度・数密度分布、3次元磁場、および静電場に影響されるタングステン不純物輸送の計算が実行できるよう、コードの開発・改良を引き続き行う。ここで、核融合炉で想定されているタングステン不純物の数密度は、背景プラズマと比べて極めて希薄(10万分の1以下)であり、これまでの研究から、クーロン衝突効果については、背景プラズマと同様な衝突オペレータをそのまま適用すると、準定常状態に緩和するまでの計算時間が膨大になる傾向があることが分かっている。また、電磁場の時間的揺らぎ(準定常状態における背景プラズマの乱流などの集団現象による揺らぎ)が想定される場合、揺らぎも含めて運動論方程式を解くことは、計算コストが極めて高く、その実行は、現計算機環境の下では現実的ではない。そのため、コード整備の際には、衝突項のモデル化や揺らぎの効果のモデル化など、計算コストの低減を図りつつ、タングステン不純物輸送シミュレーションに適したドリフト運動論方程式の近似法の考察を行う。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の継続的な流行により、共同研究者との研究打合せは、オンラインで行うことが多くなり、旅費の支出が当初予定より少なくなった。また、シミュレーションコード開発に利用しているスパコンにおいて、計算に利用している機能の一部に不具合が生じたため(年度後半に、このトラブルへの恒久対策が施されたが)コード開発が遅延したこと、および電気料金の高騰のために利用しているスパコンが縮退運転となり計算実行の機会が抑制されたことにより、研究の進行が遅れる事態となり、そのため予定通りに使用できなかった。令和5年度における使用計画としては、翌年度分として請求した助成金と合わせ、論文掲載料の支払いや、新型コロナウイルス感染症の流行状況とそれに対する社会情勢を見極めながら、対面での研究打合せ・学会発表のための旅費などに使用する予定である。
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