2020 Fiscal Year Research-status Report
Effective theories at strong coupling and nuclear models from branes
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20K03930
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
松尾 善典 大阪大学, 理学研究科, 特任助教(常勤) (30784417)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 超弦理論 / AdS/CFT対応 / holographic QCD / 原子核理論 / ブラックホール |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、超弦理論のholographyを用いることにより、原子核を構成する核子をD-braneと関係づけ、その有効理論である行列模型を用いて原子核の状態を記述する。過去の研究において、この行列模型を用いることで原子核の半径を計算し、原子核の重要な性質である核子数密度の飽和則を再現できることが知られていた。しかし、過去の研究では核子の軌道運動の効果については考慮されていなかった。 令和2年度の研究においては、この過去の研究で行列模型から計算された原子核半径について、軌道運動の効果を取り入れても核子数が大きい極限では影響が無視できることを示した。さらにこの過去の研究で導出された核子数密度をもとに、核子間の有効ポテンシャルを導出した。この有効ポテンシャルを用いて原子核の結合エネルギーを計算したところ、核子数が大きい極限において、核子1つあたりの結合エネルギーが原子核全体の核子数に依存しない、すなわち、結合エネルギーの飽和則を満たすことが分かった。 これにより、holographyを用いた行列模型によって、核子数密度の飽和則、結合エネルギーの飽和則、魔法数、という原子核の性質として重要な3つの性質が再現できたことになる。 また、本研究ではholographyを用いるため、holographyそのものについての理解を深めることも重要である。近年の研究において、特にブラックホールの情報喪失問題と関連して、Hawking輻射がブラックホール内部の情報を持つという理論が、holographyを用いたentanglement entropyの計算を基に提唱されている。本研究では、このIslandと呼ばれる効果について調べ、この効果がmembrane paradigmなどのより一般的なブラックホールの対応関係に関係する可能性があることを指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
現在までの研究において、D-braneを用いた原子核の行列模型の解析により、原子核の結合エネルギーの飽和則という重要な性質を再現することができた。この結合エネルギーの飽和則は、申請書の研究目的に記載した3つの重要な性質の1つであり、当初の計画では模型の様々な改良を行った結果として研究の最終段階近くで再現できるという想定であった。その結合エネルギーの飽和則が再現できたことは予想外に大きな成果である。残りの半径と質量数の相関と魔法数については、すでに部分的にではあるが再現できているため、3つの性質全てが再現できたという意味でも非常に大きい成果である。よって現時点での研究成果においては、当初の計画以上の進展があったと言える。 一方で、実施計画に記載した具体的な手法の例は、主に現時点で質量数の比較的小さい原子核についてしか再現できていない魔法数を、より質量数の大きい場合に拡張することを主眼に置いており、この方向については大きな進展はない。しかし、これは1年間で達成する目標ではないため大きな問題ではない。 また、計画ではholography自体の研究も進めることとしているが、近年注目されているIslandに関する成果が出ており、これについては順調である。 ただし、新型コロナウイルス問題のため、研究計画で予定していた研究会や研究打ち合わせのための出張ができなかったため、特に研究のための情報収集、共同研究者との議論などの面は一部遅れが生じている。成果の発表に関しては、論文は年度末時点で投稿準備中であるが1年間で学術誌掲載まで完了しないことは珍しくないため初年度の進捗としては想定の範囲内である。 総合的には、特に研究成果の進展が大きいため、情報収集の遅れを含めても当初の計画以上の進展がある。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究で、研究目的に記載した魔法数、結合エネルギーの飽和則、核子数と半径の相関という重要な性質について部分的には再現できているが、核子数の大きい原子核の魔法数などまだ解決すべき課題は残されている。よってこれらの課題を解決し、より統一的な記述を可能にするため、引き続きD-braneを用いて構築された原子核を記述する行列模型とその解析手法の研究を進める。 当初の研究計画に記載したゲージ変換の下で入れ替わる核子の座標に関する自由度については、令和2年度の研究で結合エネルギーを計算した手法において、行列の対角成分よりも固有値の方がより核子の座標に近い情報を持っていると解釈できるため、これを参考に研究を進める。結合エネルギーの計算に関する研究そのものについては、この方向でそのまま延長することは難しいと考えられる。よって、当初の計画通り、魔法数の計算等に使用した手法を、より核子数の大きい原子核に適用できるような手法について研究する。 また、結合エネルギーの計算において核子数密度に関する過去の研究の成果を利用したため、この手法に関しても改めて検証する。特に密度が原子核表面付近で非常に大きくなるという現実の原子核とは異なる振る舞いも見られるため、この部分を改良する方法についても研究する。具体的には、令和2年度の研究において軌道運動の効果やflavorの効果について部分的に検証しているが、これについてより詳細に調べ、より現実に近い密度分布を再現できないか調べる。 また、holographyなどの対応関係そのものに関する研究については、現在Islandなどの効果が注目されているが、他の注目されている関連研究についても情報収集を行い、holographyなどの対応関係自体への理解を深める。
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Causes of Carryover |
当初の計画では情報収集や共同研究の議論を行うために他の研究者を訪問、招聘するための旅費と、国内学会や国際会議等に出席し、他の研究者の発表から最新の研究についての情報収集を行ったり、他の参加者と議論を行うための旅費が計上されていたが、新型コロナウイルス問題のため、これらの出張等を行うことができなかった。しかし、理論的な研究に予想以上の進展が見込まれたため、そちらを優先し、情報交換や議論のための出張については代替手段を講じるよりも主に次年度以降に延期することとした。このため、主に旅費を中心に次年度使用が発生した。また、これらの出張に関連した物品費、特にこの情報収集に基づく資料の購入などに関しても次年度使用が生じている。 次年度の研究計画においては、基本的に当初の計画については計画の通りであるが、それに加えて、当初の研究計画では今年度に予定されていたが新型コロナウイルス問題により延期された情報収集や議論のための出張等も行う。ただし、当初の研究で本年度に計画されていた出張と次年度の計画の出張を全てそのまま行うことは現実的ではないため、オンライン等の代替手段やその他の方法で研究を推進するための計算機関連の物品等も準備する。
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