2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K03934
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
松浦 壮 慶應義塾大学, 商学部(日吉), 教授 (70392123)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 超対称性 / 格子ゲージ理論 / 数値計算 / 超弦理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、球面上のN=(2,2)超対称ヤン・ミルズ理論を格子上に定義し、その連続極限の挙動を数値的・理論的に調査した。「研究実施計画」にも記した通り、研究計画の初年度にあたる本年の目的は、自明なチェックを確実に行い、将来的にゲージ/重力双対性の検証を行う際に起こり得る問題点を洗い出すことである。 まず、計算コードを並列計算が可能な形に書き換え、大きな格子サイズにも対応出来るように改良した。アルゴリズムは変更していないが、並列化によって予期しないバグが入る可能性は否定できない。ハミルトニアンの保存、分子動力学の時間反転対称性などの代表的な検証を行うと共に、超対称変換に関して作用が不変である事を数値レベルで確かめた。 その後、格子上に保たれている超対称性に関するWard-高橋恒等式が成立するかどうかを検証した。通常、これは自明なチェックなのだが、背景が球面の時にはアノマリーの影響を受けて非自明な現象が起こることが明らかになった。球面背景では真空自体がU(1)電荷を持つため、意味のある物理量を評価するためにはその電荷をキャンセルする必要がある。我々の先行研究において、このU(1)電荷をキャンセルするためにcompensatorという演算子を提案していたが、今回の研究で、作用が持つ対称性に由来するWard-高橋恒等式を評価する時ですら、フェルミオンを含んだ適切なcompensatorを用いる必要があることが明らかになった。 更に、連続極限に近づくにつれてフェルミオンのゼロモードが顕在化し、連続極限の回復を阻むことも明らかになった。これは球面背景に限った話ではなく、トーラス背景でも同様の問題が生じ得る根源的な問題である。これを回避するための理論的な処方箋は既に開発しており、現在、それが機能するかどうかを確かめる数値計算を実行中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、連続極限、ラージN極限を取る際に生じるであろう問題点を洗い出すことが目的であった。研究実績の概要でも記した通り、アノマリーやフェルミオンのゼロモードの処理に具体的な方策が示された点は大きな進展で、今後の研究のために大いに活かせる。一方で、これらの困難が全て表面化したために、N=(2,2)超対称ゲージ理論の連続極限での評価を行うという目的を達成することが出来なかった。これは次年度に持ち越すことになる。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、前年度に得られた数々の方針を論文の形で報告する。 そして、理論的な立場から考案されたゼロモードを回避する処方箋が正しく機能する事を数値的に確かめる。 また、より対称的に球面を分割するアルゴリズムを開発することに成功したことを受け、効率よく連続極限を実現する方法を模索する。 それと平行して、理論の挙動を改善するために物質場を導入した理論、及び、符号問題の影響が強くなると思われるN=(4,4)、N=(8,8)理論の計算コードを開発し、予備的な数値計算をはじめる。 時間が許せば、最終目標である4次元理論の数値計算の前段階として、超対称行列理論を用いてファジー球面の安定性を調査する。
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Causes of Carryover |
コロナ禍によって予定していた旅費や人件費を全く消化できなかったことに加え、数値計算に用いるPCを次年度以降に購入した方がより効率の良い研究が行えると判断したため。次年度以降に計算用PCを購入することを計画している。
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