2022 Fiscal Year Research-status Report
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20K03934
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
松浦 壮 慶應義塾大学, 商学部(日吉), 教授 (70392123)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 超対称性 / 格子ゲージ理論 / 数値計算 / グラフ理論 / ゼータ関数 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、前年度に発見した、離散化したN=(2,2)超対称ゲージ理論のフェルミオン・ゼロモードの問題を解決するプロセスで、グラフゼータ関数と格子ゲージ理論の間に密接な関係があることを見いだした。 きっかけは、このゼロモードをキャンセルするために挿入する演算子を構成しようと試みたことである。その過程で構成された演算子のひとつが、1992年にKazakovとMigdalによって発見された模型(KM模型)の作用と同じ形をしており、その期待値がグラフのサイクルを数え上げる働きをすることが示唆された。そこで、予備的な試行として、この演算子をグラフ上に一般化されたKM模型の作用とみなして分配関数を計算したところ、グラフゼータ関数と呼ばれる関数を行列重み付けして拡張されたものになっていることを発見した。 グラフゼータ関数は、グラフ上の原始サイクルをカウントする関数で、その逆数が有限行列の行列式で表されるという著しい性質を持っている。我々は、行列重み付けしていてもこの性質が失われないことを証明した。そして、この性質を利用することで、large Nにおけるグラフ上に一般化されたKM模型の分配関数を正確に計算することに成功した。 さらに、KM模型から派生した別の模型(FKM模型)についても、グラフゼータ関数による記述ができることを見いだした。この模型は、Wilson型格子ゲージ理論と近い特性を持ち、特に連続極限においてヤン・ミルズ理論を再現する可能性が示唆される興味深い模型である。我々は、グラフゼータ関数の特性を利用して、この模型が、考えているグラフの詳細によらずに、large Nにおいて相転移現象を起こすことを見いだした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画では、フェルミオン・ゼロモードの処理を行い、超対称ゲージ理論の数値計算を実行することを想定していた。その意味では予定通りの進捗ではないが、興味深い演算子の発見を経て、この理論が当初想定していた以上に豊かな構造を持っている事が示唆される結果となった。予想外の発見があることは研究活動の常であり、新しい知見に基づいて理論の理解を推し進められた点は明確に前進である。総合的に評価して、おおむね順調な進展であると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
FKM模型は、グラフの構造を反映して、一般には複数回の相転移現象を起こすことが示唆されている。理論的な考察だけでその相転移現象を理解するのは困難であるため、数値計算によってその理解を深める予定である。その知見を踏まえ、当初の目的である、超対称ゲージ理論のフェルミオン・ゼロモードをキャンセルする演算子としての役割を理解し、正しく機能する作用の下で超対称ゲージ理論の連続極限における予言を行うことが次の予定となる。
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Causes of Carryover |
コロナ禍により、当初の予定以上にオンラインの会議が増え、旅費を予定通り消化出来なかったために次年度使用額が発生した。次年度は、対面での研究会・学会に参加する予定を立てていることに加えて、コロナ禍で叶わなかった密な議論を積極的に行うために、定期的に共同研究者を招聘して研究に当たる予定である。
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