2020 Fiscal Year Research-status Report
Massive field perturbations on black hole spacetime
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20K03938
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
石橋 明浩 近畿大学, 理工学部, 教授 (10469877)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 一般相対論 / ブラックホール / 重力理論 / 宇宙論 / 超弦理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、ブラックホールの極大回転あるいは極大荷電状態を表す臨界ブラックホールの事象の地平面近傍を表し、ゲージ重力理論対応でも重要となる反ド・ジッター時空(AdS時空)における様々な摂動場のマスター方程式の一般解の基本性質を調べた。漸近AdS時空上の摂動は、理論が零質量の波動を含むものであっても宇宙項が質量項の働きをするため、実質的に有質量摂動と見なすことができ、その振る舞いを調べることでブラックホールの有質量摂動論の構築に重要な洞察が得られると考えられる。時空が回転をもたない静的な場合のAdS時空やそれを部分空間としてもつ直積型の時空における零質量および有質量ベクトル・テンソル型摂動については、既にマスター方程式を導出しており、その一般解を超幾何関数で記述することができる。本年度は、局所的にはAdS時空で記述されるトポロジカル・ブラックホール上での零質量および有質量ベクトル型・テンソル型摂動のマスター方程式の解について、事象の地平面では、(1)純入射型境界条件および(2)ディリクレ型境界条件、AdS共形無限遠では背景時空の次元、摂動の型、および質量項の大きさに依存して可能な境界条件の分類を行った。事象の地平面での2種類の境界条件は、(1)が準固有振動、(2)が安定性解析の際に必用となるものである。この内(2)についてはトポロジカル・ブラックホールが縮退した地平面(AdS時空のポアンカレ座標におけるコーシー地平面に対応)の場合については、境界条件の厳密な要請に関する課題も浮き上がった。以上は、申請者の指導する大学院学生とともに遂行している。当該大学院生には本計画の部分的成果について学会発表をしていただいた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画の核心を成す問いの内、どのような背景ブラックホール上でどのような有質量ボソン場に対してマスター方程式が導出可能かについては、少なくとも静的ブラックホールで地平面を定める部分空間上でベクトル型とテンソル型に分類される線形摂動場に関しては、変数分離および自由度の脱結合が可能であることが理解できている状況である。一方、回転をともなうブラックホール背景時空上の場合については、この問いに対する部分的な理解も得られていない状況である。回転ブラックホール背景上での有質量ベクトル場の変数分離性に関するFrolovらの先行研究結果における自由度の脱結合が、上述の静的ブラックホール背景時空上の有質量ベクトル場のマスター方程式の自由度とどの様に対応するのかの理解をさらに推し進める必要がある。一方、安定性解析を行う上で興味深い量子ブラックホール時空を漸近安全な量子重力理論の範疇で構築する研究において進展があった。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は背景時空として局所的にAdS時空で表されるトポロジカル・ブラックホールを考えたが、有質量摂動の内でも地平面の断面を表す部分空間上での分類でテンソル型およびベクトル型に分類される摂動に関しては、有質量トポロジカル・ブラックホールの場合にもマスター方程式が導出されている。そのような有質量トポロジカル・ブラックホールの場合には、大域解の構成には地平面近傍の解と、共形無限遠方の解を漸近共通領域において接続する必要がある。そのような漸近共通領域の存在の判定条件と接続可能性の系統的な理解が、今後の課題である。また、静的な有質量トポロジカル・ブラックホール背景時空の上で、実際に大域解を構成し、安定性・不安定性を検討することも課題である。以上とは独立な計画として、古典論におけるバーデーン型の正則ブラックホールや、量子重力による補正を受けた正則ブラックホールのコーシー地平面内部領域における摂動論の構成と、それによるコーシー地平面の安定性解析も今後の課題である。
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Causes of Carryover |
予定していた共同研究者との研究打ち合わせや、国内外の研究会での研究成果発表の機会が、新型コロナウイルス感染症の問題のため中止、あるいはオンライン開催となり、海外および国内旅費の使用ができず、計画の変更が必要となった。本年度も、この新型コロナウイルス感染症問題のため、研究会等が開催地における対面形式で開催される見込みは少なく、予算を国内外旅費に使うことは困難と予想される。そこで今後は、オンラインによる研究打ち合わせや、今後開催が予想されるオンライン研究会・シンポジウム等での効果的な研究成果発表のためのパソコン周辺機器・ソフトウェアの拡充に予算を充てたい。
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