2021 Fiscal Year Research-status Report
ブラックホールの情報喪失問題解決に向けたホーキング輻射の多角的解析
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20K03946
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
森田 健 静岡大学, 理学部, 准教授 (40456752)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ブラックホール / 量子力学 / 超弦理論 / ゲージ理論 / 数値解析 / バタフライ効果 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は主に2つの研究で進展があった. 1つは量子バタフライ効果に関するもので, もう1つはbootstrap法と呼ばれる数値解析に関してである. 1つ目の量子バタフライ効果に関する研究では, バタフライ効果の指標であるリアプノフ指数と呼ばれる物理量が, どのような場合に古典力学と量子力学で一致するのかを研究した. 一般に古典力学と量子力学では, 同じ物理量でもその振る舞いが大きく異なることがある. これは粒子の描像が古典力学と量子力学で全く異なるためである. 本研究ではリアプノフ指数が, 古典力学と量子力学で一致する条件を調べ, これまで考えられていなかったような状況でも, 一致することを示した. リアプノフ指数やバタフライ効果は, 近年ブラックホールの情報喪失問題との関連が注目されており, 本研究もブラックホールへの応用が期待される. 2つ目の研究の「bootstrap法」とは近年提唱された, 量子系における新しい数値解析の手法である.本研究では, bootstrap法について調べ, この方法がこれまで既存の数値解析方法では計算を行うのが困難な「符号問題」と呼ばれる問題がある場合に対しても有用なことを示した.符号問題は角運動量を持った量子多体系や, 有限密度のフェルミ粒子系など物理的に重要な多くの系で存在するため,今回の成果は意義があると考えられる. ただしbootstrap法はまだ不明な点が多く, どこまで実用的な数値解析方法かは不明のため, 今後はこの点について研究していく必要がある.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画していたホーキング輻射の研究での進展は遅れているが, 本研究ではこれまで量子力学の基礎的な側面に関していくつかの研究成果が得られた. 特にbootstrap法という新しい数値解析の方法に関する研究において, 既存の数値解析では扱うのが困難な符号問題が存在する場合にもbootstrap法が有用なことを示したのは大きな成果である.この研究が順調にいけば進めば, これまで符号問題のため通常の数値解析が困難であった回転する量子多体系や, 有限密度における熱平衡状態など多くの系の解析が進む可能性がある. また量子力学におけるバタフライ効果の性質に関する理解も進んだ.これはこれまで理解が曖昧であった, 古典バタフライ効果と量子バタフライ効果を結びつけるものである.本研究を更に発展させていくことで,量子カオスやブラックホールなど多くの研究への応用が期待できる.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では本年度, 量子バタフライ効果とbootstrap法に関して中心に研究を行った.今後はこれらを応用した研究を行っていく. 量子バタフライ効果の研究は今後,量子カオスや量子問題の時間発展問題の研究への応用が期待できるのでこれを行っていく. 具体的には, 既存の古典カオス系と量子カオス, そしてブラックホールの関係を明らかにしていく. またbootstrap法の研究では, bootstrap法がどの程度実用的に使える数値解析手法になっているのか研究をすすめていく. 先に述べたようにbootstrap法は符号問題がある場合でも有効な数値解析であることが期待できるので, もしbootstrap法の実用化が出来た場合,これまで符号問題のために解析が困難であった量子回転系や有限密度系への応用を行っていきたい.
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Causes of Carryover |
昨年度に続き,今年度もコロナ対策で研究会や研究打合せがオンラインで行われることが多かったため, 旅費を使用する機会がなかった. その反面,オンラインでの打合せを円滑にするためのPC周辺機器などの出費も増えたが, 全体では次年度使用額が生じることとなった. 次年度は対面での研究会や研究打合せが増加する予定なので, 助成金はこれらの旅費として使用する計画である.
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