Outline of Annual Research Achievements |
今年度は主に量子カオスと, 量子力学の不確定性関係の研究において進展があった. 量子カオスにおける問題点として, どのように系のカオス性を定量的に特徴付けるのかという問題がある. 古典カオスにおいては, バタフライ効果の大きさをリヤプノフ指数によって定量的に評価できるが, 近年 out-of-time-order correlator (OTOC) と呼ばれる量を評価することで, 量子力学においてもリヤプノフ指数を読み取ることができると期待されるようになった. しかし, 古典力学におけるリヤプノフ指数と量子力学においてOTOCを評価して得られるリヤプノフ指数の間の関係は, それほど明瞭でなかった. これは, 量子力学におけるリヤプノフ指数の値が, 量子状態に大きく依存するためである. そこで本研究ではどのような状態を取れば, 古典力学のリヤプノフ指数を再現できるのか調べ, 古典論と量子論のリヤプノフ指数の対応関係を解明した. また不確定性関係の研究においては, 不確定性関係がこれまで考えられていたより様々な応用が可能なことを示した. まず, 近年量子力学の数値解析で注目されている, Bootstrap法と呼ばれる手法が, 不確定性関係の一般化と見なせることを指摘した. Bootstrap法を用いると, シュレディンガー方程式を解かなくても系のスペクトラムを得ることが出来ることが知られていたので, 本研究により, 「不確定性関係だけから系のスペクトラムを導出することが可能」なことが解明された. またこの方法を用いるとモンテカルロで解析するのが困難な符号問題がある系においても, スペクトラムを評価できることを解明した. さらに, 様々な量子状態における期待値間の不等式関係の導出など, これまで実現することが困難であった, 様々な関係式を不確定性関係を通して得ることに成功した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度は, 量子力学の基礎問題において大きな進展を得ることが出来た. 特に不確定性関係についての研究は, 当初の研究計画にはなかったものだったが, これまで知られていなかった量子力学の新たな側面を解明することが出来た. 例えば古典力学におけるポテンシャルに束縛された粒子の運動可能な範囲とエネルギーの関係を, 量子力学においても不確定性関係を応用することで, 導くことが可能であることを示すことが出来た. また不確定性関係だけから, 系のスペクトラムを導出可能ということを示したのは, これまでの量子力学の概念を覆すものかもしれない. また量子カオスの研究においても, この分野で論争があった古典リヤプノフと量子リヤプノフの関係を, かなり明瞭に示すことができた. これも当該分野においては重要な進展であると考えられる.
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Strategy for Future Research Activity |
不確定性関係の研究は, 現時点では基礎研究の段階だが, 様々な応用が考えられる. そこで本研究では主に2つの方向で進める. 1つ目は, 不確定性関係を用いると符号問題がある系においても, スペクトラムの解析が原理的には可能なことが本研究で解明されたので, それをどの程度の多体系まで応用可能なのか追求する. 特にこの方法は, 多体極限の方が簡単になる場合があることが指摘されており, うまくいけば画期的な進展が望める. 2つ目は, 不確定性関係の応用法をさらに探る研究である. 今年度の本研究により, 様々な期待値の間に成立する不等式関係式を発見することが出来た. そこで, これらの不等式関係を用いて, 既存の量子力学の諸問題に対する応用を検討していく. 次に量子カオスの研究においては, 今年度の研究において量子リアプノフの性質の理解が大きくすすんだので, さらに研究をすすめ, ブラックホールや量子重力におけるカオスの役割を解明していきたい. 特にホーキング輻射に対する応用は興味深いと考えられるのでそれを推進していきたい.
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス流行の影響で, 研究会の参加を制限されたため予定より予算が使用できなかった. (Web会議の設備を整える予算も必要だったが, そこまで多くは使用しなかった.) 次年度は, 研究会の参加がしやすくなると考えられるので, これまで出来なかった分まで国際研究会に参加するなどし, 積極的に国際交流などをすすめていく予定である.
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