2020 Fiscal Year Research-status Report
フレーバー物理におけるアノマリーから探る新物理の理論研究
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20K03947
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
戸部 和弘 名古屋大学, 理学研究科, 准教授 (20451510)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | フレーバー物理 / レプトクォーク |
Outline of Annual Research Achievements |
ミュー粒子の異常磁気能率(muon g-2)は実験的に非常に精密測定されている物理量だが、その測定値が素粒子標準模型の予言値とずれていることが報告されている。またB中間子がD(*)中間子、レプトンl、ニュートリノνに崩壊する過程(B→D(*)lν)で、終状態のレプトンがτの時とそれ以外の時の崩壊率の比R(D(*))の測定値も標準模型の予言値とずれていることが報告されている。これらのずれが標準模型を超える新物理によるものだとしたら、新物理の非常に重要な手掛かりになりうる。 これらのずれを説明する候補としてレプトクォーク模型が指摘されている。レプトクォークはレプトンとクォークと同時に相互作用する新しい素粒子である。レプトクォークの中でも、ミュー粒子とトップクォークと相互作用するものは、muon g-2に1ループレベルで大きな寄与を与えうることが知られていて、そのずれを説明しうる。また一方で、このような相互作用をするレプトクォークはR(D(*))へも寄与しうるので、2つの物理量の測定値のずれをどれくらい説明できるかを明らかにすることは非常に重要である。先行研究で、両方のずれをどれだけ説明しうるかの詳しい解析は今までなされていなかったので、名古屋大学理学研究科修士2年大津颯人君の修士論文の研究でそれを詳しく解析した。 スカラータイプのレプトクォークについて解析すると、R(D(*))に大きな寄与を生成することはできるのだが、b→sνν崩壊やB中間子ー反B中間子(Bs-反Bs、Bd-反Bd)混合からの制限が非常に厳しく、R(D(*))への寄与は非常に制限されることがわかった。よってmuon g-2へは大きな寄与を生成できるが、R(D(*))へ大きな寄与を生成するのは難しいことがわかった。この制限は、ベクタータイプのレプトクォークにも有効なので、今後はその詳しい解析をしたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度はスカラーレプトクォークの模型を主に解析した。この模型はb→sνν崩壊からの制限が厳しいことが知られているが、他の様々な過程からの制限を考慮してどれだけ大きなR(D(*))のずれを出すことができるか、という詳しい解析はあまりなされていなかった。しかしこの模型で様々な過程を調べてみると、b→sνν崩壊だけでなくB中間子ー反 B中間子混合(Bs-反Bs混合、Bd-反Bd混合)からより強い制限があることが明らかになった。より興味深いベクターレプトクォーク模型は、模型のフレーバー構造など、より複雑であるが、B中間子ー反B中間子混合からの制限は、スカラーレプトクォーク模型と同様に、より重要な制限になることが期待される。今後はまずその解析を進めたい。研究の進展としてはおおむね順調である。
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Strategy for Future Research Activity |
スカラーレプトクォークの解析で、B中間子ー反B中間子混合(Bs-反Bs混合、Bd-反Bd混合)からの制限が非常に厳しくなりうることがわかったので、まずはこれをより興味深いベクターレプトクォーク模型の解析に適用して、その制限を詳しく調べたい。この制限は、新物理として導入したレプトクォークの質量や相互作用の強さだけでなく、レプトクォークが持つフレーバー構造にも制限を与える。ベクターレプトクォーク模型の解析の大抵の先行研究では、ある特殊なフレーバー構造を仮定して、模型を解析している場合が多いようなので、このような解析からさらに模型のフレーバー構造に対する示唆が得られるのかを明らかにしたい。またそのようなフレーバー構造から予言される現象はないか、などを明らかにすることによって、標準模型自体が持つフレーバー構造の深い理解につなげたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルスのため、主に旅費として使用する予定だった研究費が未使用となった。今年度の状況もまだ不透明なところもあるが、今年度旅費として使用可能になれば研究会参加、情報収集などのために利用したい。今年度と同じように出張が難しい状況になったとしても、オンラインでの会議参加、情報収集のための議論などを駆使して、臨機応変に研究を推進していきたい。
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