2022 Fiscal Year Research-status Report
ミューオン異常磁気能率を突破口とした新物理探索のための基礎研究
Project/Area Number |
20K03960
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Research Institution | International University of Health and Welfare |
Principal Investigator |
野村 大輔 国際医療福祉大学, 保健医療学部, 講師 (40583555)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | ミューオン / 異常磁気能率 / 素粒子の標準模型 |
Outline of Annual Research Achievements |
この研究課題が始まった 2020 年4月の時点で、ミューオンの異常磁気能率 (muon g-2) に対する理論値(素粒子標準模型からの予言値)と実験値との間には 3.7 シグマの不一致があることが知られていた。もしこの不一致が理論計算や実験の間違いではなく正しい数字であれば、標準模型を超える新物理の存在を示唆している可能性がある。この 3.7 シグマという数字が本当に信頼に足る数字なのかどうかを判定するには、muon g-2 に対する理論値をより詳しく調べることによって理論値の信頼性を上げることが必要である。この研究では muon g-2 に対する標準模型の予言値の信頼性および精度を改善することを主目的とする。 2022 年度も前年度に引き続き、数値計算の信頼性を高めるため、muon g-2 へのハドロンの寄与を計算するプログラムと、それを計算するのに不可欠な QED running coupling へのハドロンの寄与を計算するプログラムの改良を進めた。とくに、QED running couplingのハドロンの寄与の値を返す fortran サブルーチンを、2020 年に出版された我々の論文 (A. Keshavarzi, D. Nomura, T. Teubner, Phys. Rev. D101 (2020) 014029) で使った実験データに準拠するようにアップデートした。従来の我々のサブルーチンは 2018 年の論文 (A. Keshavarzi, D. Nomura, T. Teubner, Phys. Rev. D97 (2018) 114025) に基づくものだったが、これら2つの論文で使ったデータの差は軽微であるため、fortran サブルーチンの更新が後回しになっていたのをこのたび更新したものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2022 年度は新しい職場への着任3年めであった。この年度は業務への慣れもあって前年度よりは研究に時間を割くことができたが、それでも授業のほか学生指導、学校運営業務などに時間を取られ、十分な時間を研究に割けなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年4月7日(現地時間)、米国フェルミ研究所 (Fermilab) E989 実験から新しい muon g-2 実験の結果が発表された。彼らの発表によると、 muon g-2 の新しい実験値は従来の実験値 (米国ブルックヘブン国立研究所 (BNL) E821 実験での測定結果) と誤差の範囲内で一致する。BNL 実験での結果と合わせると、muon g-2 の実験値は標準模型の予言値から 4.2 シグマ離れている。Fermilab 実験の結果によって標準模型を超える物理が存在する可能性はさらに高まった。 しかし、最近、格子 QCD を用いて実験値とよりよく合う理論値を得たと主張するグループ (BMW collaboration) が現れた。彼らの値は BNL や Fermilab での実験値と近く、もしこれが本当なら muon g-2 にアノマリーは存在しないことになる。その後、BMW グループの結論を裏付けるような格子 QCD 計算の結果が他の複数のグループからも発表された。 これらの状況を踏まえ、2023 年度も従来と同様に、我々が使ってきた手法 (dispersive method) と格子 QCD 計算の予言値の違いはどこから来るのかを突き止めたいと考える。そのための手段として、まずは今後もこれまでに引き続き、muon g-2 へのハドロンの寄与を計算するプログラムと、それを計算するのに不可欠な QED running coupling へのハドロンの寄与を計算するプログラムの改良を進める。
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Causes of Carryover |
2022年度も前年度に引き続きコロナ禍のため、前年度より緩やかになったとはいえ海外渡航のハードルは高かった。このため国外への旅費を使う機会がなく、次年度使用額が生じた。ワクチンの普及などにより次年度以降は徐々に状況が好転すると予想され、国内外での研究会も現地開催が多くなるものと考えられるため、旅費は次年度以降に使う。
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