2021 Fiscal Year Research-status Report
重力波の余剰な偏波の検証法の定式化と重力理論模型への制限
Project/Area Number |
20K03963
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
浅田 秀樹 弘前大学, 理工学研究科, 教授 (50301023)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 重力理論 / 重力波 / 宇宙物理 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでの検出重力波は、強い重力場の領域で発生している。このため、強い重力場を理解することが重要である。まず、強い重力場の探針として、光線の振る舞い(重力レンズ効果)の再検討をおこなった。特に、従来の重力レンズ研究は、ミンコフスキー背景時空(あるいは共形平坦)に基づく。今回、曲がった時空を背景とする手法を探った。その結果、宇宙定数によって曲がった時空、つまり、ドジッター時空を背景時空とする重力レンズの定式化に成功した。この手法は、宇宙定数の大きさに関する近似展開を行わないため、厳密である。さらに、漸近的平坦性の仮定のもとで無限遠極限をとることによって「光の曲がり角」を求めるのが標準的な方法だが、、本手法では、漸近的平坦性を要請しない。また、観測者および光源がドジッターホライズンの直前に位置する場合でも、近似なしで記述できる利点がある(Takizawa and Asada, PRD, 2022)。 また、EHT観測などで注目される、ブラックホールの観測的内縁のひとつである「光球」(Photon Sphere)の再解析をおこなった。光球は、その接線方向に進む光が永久にそのうえにとどまる閉曲面として定義される。その接線方向の光線の曲がり角は無限大となるため、光球近くで散乱する光線の曲がり角は、光球に近づく極限で無限大に発散する。これは「大角度散乱極限」(Strong Deflection Limit)とよばれる。多くのブラックホールやワームホールに対して、この大角度散乱極限が起こることが知られている。しかし、本研究によって、あるタイプの光球では大角度散乱が生じないことを見出し、大角度散乱極限が光球の安定性に依存することを本研究で明らかにした。静的球対称時空において、光球が安定な場合、大角度散乱極限が禁止されることを証明した(Kudo and Asada, PRD, 2022)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
多くの重力波源のような強い重力場を理解するための理論的手法(「ドジッター時空を背景とする重力レンズの厳密な定式化」、および「安定な光球周りでの大角度散乱極限の禁止定理」)を開発できたため。
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Strategy for Future Research Activity |
強い重力場を理論的に探るための手法をこれまでに開発したが、例えば、背景時空がドジッター時空を仮定していた。一般相対性理論の枠内でも宇宙定数以外が存在する場合、背景時空はドジッター時空とは異なる。また、修正重力理論が示唆する背景時空もまた必ずしもドジッター時空ではない。背景時空の構造をより一般的にした状況での重力レンズの厳密な定式化の拡張を遂行する。optical metric を用いた手法は低次元の幾何に帰着させる点で、この拡張を試みる際には有用と思われる。 また、安定な光球周りで大角度散乱極限の禁止定理を証明したが、その証明では、静的球対称の仮定を用いている。より低い対称性でも同様の定理が成り立つかどうか、調べることは重要である。例えば、球対称の仮定を軸対称に代えた場合、同様の定理が成り立つかどうか詳しく調べたい。さらに、静的の仮定を定常に代えた場合も調べる予定である。そして、得られる数学的な性質から、観測への示唆を引き出す予定である。 さらに、得られた成果を用いて、こうした強い重力場領域と重力波の性質との関わりを明らかにする予定である。
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Causes of Carryover |
当初参加予定していた国際会議および国内学会等がオンライン開催に変更となり、旅費の執行が今年度なかったことが主な理由である。次年度の国内学会等の秋季大会が現地開催される旨、現時点で主催者から予告されているため、これらの大会での成果発表および研究打ち合わせ等のための出張旅費・参加費として使用する計画である。
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