2020 Fiscal Year Research-status Report
Description of nucleosynthesis by a quantum reaction theory under extreme environment
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20K03971
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
緒方 一介 大阪大学, 核物理研究センター, 准教授 (50346764)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 元素合成 / 量子反応 / 極端環境 |
Outline of Annual Research Achievements |
令和2年度は、研究計画立案の基盤となった、背景中性子が存在する状況における原子核捕獲反応の記述(第一段階)を完成させた。 このモデルでは、背景中性子の影響によって、反応系のエネルギーが実効的に増加する。これは、(1) 反応に関与する粒子の実効数を増やし、(2) 反応の断面積を下げる効果をもたらす。分析の結果、温度が低い場合には後者が優勢であり、温度が高くなるにつれ、前者の方が反応率の変化を支配するようになることがわかった。ただし、反応率の大きな変化が起きるのは環境中性子の密度が原子核の標準密度の1/1000以上のときである。これは、中性子合体後、元素合成(中性子捕獲)が始まる際の中性子密度よりも数桁大きい。しかしこの「常識」は、中性子密度が常に一様・等方的であるとした場合のものであり、これは、中性子合体のシミュレーション計算の都合で導入されている近似・仮定にすぎない。中性子星合体の後、連星の構成要素(大半は中性子)が飛び散る際、中性子密度が非一様となる自由度をシミュレーションに取り入れることができれは、本研究で見出した反応率の変化が現実の元素合成確率に有意な影響を及ぼす可能性がある。また、電荷をもった粒子の反応では、環境中性子によるエネルギーシフトが極めて僅かであっても、クーロン障壁の透過確率を劇的に変化させる可能性もある。 この成果は、学術誌Journal of Physics Gに出版された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の第1段階の主要な成果を学術論文として出版できたことは重要な進展であると考えている。しかし、COVID-19による渡航・移動制限のため、得られた知見を元素合成シミュレーションに導入する方針の策定や、環境中性子が元素合成時の統計的平衡状態の形成・消失にもたらす影響など、研究の第2段階へと進むために必要な議論を進められなかったことは大きな痛手である。令和3年度以降、COVID-19の状況を注視しながら、できるだけ早く、これらの議論に着手したいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
前項でも触れたが、令和2年度に得られた成果を元素合成シミュレーションに導入する方針を策定するとともに、環境中性子が元素合成時の統計的平衡状態の形成・消失にもたらす影響の吟味を行う。いずれも研究協力者との緊密な議論が鍵であり、COVID-19の状況を注視しつつ、一刻も早く着手したいと考えている。
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Causes of Carryover |
申請書に記載したとおり、本研究の鍵は海外(米国・ドイツ)の研究協力者との緊密な打ち合わせであり、そのために必要な旅費が研究経費の多くを占めている。しかし令和2年度は、COVID-19のために渡航が適わず、研究計画の変更を余儀なくされた。令和3年度は状況の好転を期待し、研究打ち合わせを当初予定よりも強化したいと考えている。
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Research Products
(2 results)