2020 Fiscal Year Research-status Report
Geometrical scaling by the gluon saturation picture and thermalization of small systems
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20K03978
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Research Institution | Tokyo City University |
Principal Investigator |
長田 剛 東京都市大学, 理工学部, 教授 (50366845)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | グルーオンの飽和描像 / 高エネエルギー原子核衝突 / ハドロン多重発生 / クォーク・グルーオン・プラズマ |
Outline of Annual Research Achievements |
強い力を媒介する粒子であるグルーオンは、光速近くまで加速された陽子や原子核の中では、より分解能を上げて構成粒子を調べると、分解能を上げるにつれてグルーオンの数が圧倒的となる。その粒子数は、グルーオンの間の強い相互作用による非線形の効果により、あるサイズ(運動量)スケール飽和状態になると考えられている。ここで現れるグルーオンの運動量スケールはグルーオンの飽和運動量と呼ばれ、高エネルギーの陽子・陽子衝突や原子核同士の衝突反応において非常に重要な役割を果たすと考えられている。 このグルーオンの飽和描像の特色は、陽子や原子核など反応の衝突系によらず、より基本的な構成要素であるグルーオンの運動量スケールが多重発生現象を支配することであり、特にグルーオンの飽和運動量に強く関連する、ハドロンの横運動量分布にスケーリング則が成立することが期待される。私はこの考えを、陽子と陽子の衝突による反応と、陽子と鉛の原子核衝突事象の実験結果の解析に適用した。特に、異なる反応系を統一的に説明することを目指し、終状態のハドロン多重度に着目した。すなわち、反応により生成される高エネルギーハドロン物質は、どのような衝突系でどのようなエネルギーで衝突させたかは重要ではなく、終状態のハドロン多重度(生成粒子数)で統一的に説明されるべきであると考えた。そこで、多重発生現象で重要な役割を果たす飽和運動量に多重度依存性を導入して、(陽子と陽子や、陽子と原子核の衝突など)いわゆる小さな衝突形で観測される横運動量分布を統一的がスケールすることを示すことに成功した。この研究結果は、米国物理学会誌 Physical Review C に投稿し受理された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在のところ、研究は概ね順調に進展していると考えている。研究計画の第一段階である、小さな系のハドロン多重発生現象で、陽子・陽子衝突に対しても、また陽子・原子核衝突現象においても、多重度に依存する飽和運動量の導入により、ハドロンの横運動量分布を統一的に説明することに成功した。また、この解析から得られたグルーオンの飽和運動量の多重度依存性から、陽子と原子核の衝突後に生成されるカラーフラックスチューブの数やチューブの直径の多重度依存性を明らかにすることができた。この結果は、ハドロン多重発生で現れる多重度事象と低多重度事象が、カラーフラックスチューブ描像ではどのように解釈できるのかを具体的に示すことができた。特に多重度の増加とともに、チューブ径が反応領域に押し込まれるように細くなりつつ詰め込まれ、詰め込まれたチューブの数に多重発生の多重度が決まるということを明らかにできた。現象論的な多重発生の描像を、実験結果と付き合わせて考えることができることを明らかにできた。さらに、それらの描像と、ストリング・パーコレーション模型との関連性が見つかるなど、本研究テーマを新しい観点から検討できることもわかり、現在の研究課題を当初念頭においてなかった形で発展させることができる可能性を見出すことができた。
これらの理由により、研究開始した時点で、当初念頭においていた結果と、それに加えて新しい知見も得られた。このことより、おおむね研究は順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策は陽子・原子核衝突や原子核・原子核衝突で観測される直接光子と呼ばれる電磁プローブを利用した幾何学スケーリングの研究へ発展させたいと考えている。研究計画において初年度は、幾何学スケーリングを通して飽和運動量スケールを調べるプローブとしてパイ中間子を用いた。これはハドロン多重発生現象においてもっとも質量の軽いパイ中間子は、生成される粒子の数として他のハドロンを圧倒しており、グラズマ(クォーク・グルオン・プラズマが熱的、化学的に平衡状態に達する前に形成される、衝突の縦方向(入射陽子や原子核の進行方向)に著しい異方性を持つ非平衡状態)のバルクな性質の理解には有効であった。 一方、グラズマからハドロン化を通して観測結果が得られる訳だが、理論と実験結果を比較する際には、どうしても理論的に未解決のクオークの閉じ込め機構を経由したハドロン化のプロセスを模型として取り入れないと実験結果と比較することができない。そこで、この理論的な不定性が入り込む余地がないプローブとしての光子やレプトン対などは、ハドロン化以前のグラズマの様子を調べるのに非常に有用なプローブであると期待される。 従って、今後の研究課題はグラズマから直接放射される光子をプローブとした研究に取り組む予定である。グラズマからの直接光子の生成に関する研究は先行研究があるが、我々がパイ中間子に対して行ったような飽和運動量の多重度依存性に関する研究はなされてない。我々は、直接光子の多重度に注目し、ハドロン化の影響を被ってない飽和運動量を、直接光子を利用して、詳細に調べてみる予定である。
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Causes of Carryover |
次年度の使用額が生じた理由は、主に旅費として利用する予定だった研究費が新型コロナウイルス感染症の感染拡大などの影響により、学会などがオンライン開催になったことなどの影響が大きい。当初、旅費にあてる研究費は、研究課題を推進するための書籍の購入などに充てたが、次年度の使用額が66,924円生じた。 この金額は、研究課題を推進するための専門図書の購入などに当てる予定である。
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Research Products
(3 results)