2020 Fiscal Year Research-status Report
Hadronic interactions explored by Imaging Atmospheric Cherenkov Telescopes
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20K03985
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大石 理子 東京大学, 宇宙線研究所, 助教 (10420233)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 解像型大気チェレンコフ望遠鏡 / ハドロン相互作用 / 空気シャワー実験 |
Outline of Annual Research Achievements |
解像型大気チェレンコフ望遠鏡(IACT)のガンマ線検出感度を決定する最も重要な要素は、雑音である宇宙線陽子の排除率である。感度曲線の正確な推定には、宇宙線陽子の形成する空気シャワーの様態の正確な理解、とりわけガンマ線様陽子事象頻度の正確な見積もりが必須である。本研究課題では、シミュレーションを用いたCTA(Cherenkov Telescope Array)の感度曲線推定において、post-LHC世代のハドロン相互作用モデル群、及び過去数年間CTAの感度曲線計算で標準的に用いられてきたpre-LHCの相互作用モデルについて、シャワー様態の差異が感度推定へ与える影響の評価を行い、研究代表者が筆頭著者としてまとめた論文がCTAの内部審査を経た上で査読付き論文誌 Journal of Physics G: Nuclear and Particle Physics に受理された(https://doi.org/10.1088/1361-6471/abfce0)。モデル間の差異は、平均的な陽子事象の頻度では10%程度であるが、頻度の低いガンマ線様陽子では100%(2倍)程度に拡がり、ガンマ線感度にして30%程度の小さくない差異につながることを示した。上記論文ではこれらの差異の性質が中性パイ粒子生成スペクトルの違いから説明できること、ガンマ線感度への相互作用モデルの影響評価は平均的な陽子事象の比較では不十分であること、IACTがハドロン相互作用モデル検証について十分な性能を持つことなどを示した。ガンマ線天文台として認知されているIACTが、専用の観測時間を必要としない背景宇宙線事象を解析対象とすることで、原子核間の高エネルギー領域での相互作用についても重要な情報を与え得る装置であることを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
covid-19の影響により海外渡航は制限されたため、現地観測シフトへの参加等は見送らざるを得なかった。また、本研究の取り扱うシミュレーションデータの生成と解析については大型計算機システムの利用が必須であるが、通常使用している宇宙線研究所計算機システムのアップグレードに伴う長期システム停止スケジュールがcovid-19の影響により延期を繰り返したため、やや予定が立てにくい状況であった。データ生成と解析の内容に優先順位をつけた上でスケジュールを勘案しつつ柔軟に対応したことで、初年度内に論文をまとめるのに必要なデータと解析結果を揃えることはできた。
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Strategy for Future Research Activity |
CTAのガンマ線感度曲線についてのハドロン相互作用モデルの影響評価は上記論文により一定の結果を得た(有意な差異が発生するため、どのモデルが最適であるか検証する必要がある)ため、今後は下記のような内容で研究を進めることを検討している。 1. (相互作用検証に向けた解析手法の最適化)上記論文ではガンマ線感度曲線を求める際の現在の標準的な解析手法を適用しているため、将来のCTAでの相互作用モデル検証に向け、モデル間の差異検出に対してより鋭敏な解析手法を導入する。 2. (現時点での実機による相互作用検証)CTA以前に現存の観測装置でもハドロン相互作用検証が可能であると考えられており、VERITASあるいはLST初号機を用いて、実データとMonte Carloシミュレーションとのパラメータ比較を行うことで現存の相互作用モデルの検証を行う。望遠鏡アレイの特性によって最適な解析パラメータが異なるため、1.に加えてそれぞれの観測システムに対応した解析手法の最適化を行う。 3. (低エネルギーモデルの影響評価)上記論文では低エネルギーモデル(80 GeV/nucleon以下で使用される)は単一のモデル(UrQMD)に固定したシミュレーションを行ったが、ヘリウム等の重元素などの寄与を考慮した観測量の比較では、低エネルギーモデルの影響はより大きくなると考えられるため、低エネルギーモデルについての同様の比較評価も行う。
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Causes of Carryover |
covid-19の影響により海外渡航が制限されたため、予定されていた旅費が執行されなかったためである。2022年度も海外渡航については予定が立てにくい状況であり、掲載が確定した論文の掲載料(オープンアクセス化料)として使用する。
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Research Products
(5 results)