2021 Fiscal Year Research-status Report
Realization of a photon-photon collider and observation of light-by-light scatterings
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20K03999
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
高橋 徹 広島大学, 先進理工系科学研究科(先), 准教授 (50253050)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 実光子弾性散乱 / 光子光子衝突型加速器 / 光子偏極 / 電子陽電子対生成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本申請による研究は,量子電磁気学において直接観測がなされていない,実光子弾性散乱の直接観測を目指している。そのための実験装置として光子光子衝突型加速器を構築する。光子光子衝突型加速器は,新たな素粒子反応実験装置として考案されたが,いまだ実現されていない。 本申請は,実光子弾性散乱という量子電磁気学の研究であるとともに,光子光子衝突型加速器の実現によって素粒子実験の新たな手法を構築するものである。 2020年度は実験装置の構築に向けた工学設計と実光子散乱過程の観測環境(実験パラメータ)の最適化を行った。 本実験では実光子散乱の背景事象となる電子陽電子対生成事象が,信号事象の10万倍起こる。特に陽電子は検出器を構成する物質との反応によって,信号事象と類似の光子対を生成する。そのため,電子陽電子と光子を検出器によって識別することが実験成功の鍵となる。この実験で生成される電子や陽電子は運動量が低く,従来の飛跡検出器を用いることができない。したがって検出器からの信号を電気的に処理することによって,電子,陽電子と光子を識別する。2021年度は2020年度に構築したGAGGとプラスチックシンチレータ,CsIとプラスチックシンチレータを組み合わせた検出器を用いて,電子,陽電子と光子の信号処理による識別性能の系統的調査を行ない粒子識別の基礎データを得た。2020はデータ平均値を用いた解析を行ったのに対し,2021年は事象事のデータを取得するシステムをLabViewを用いて構築し,β線,γ線双方についてデータの取得と解析を行った。 これと並行して信号事象と背景事象を識別し信号事象を見出すための,データ解析の数値シミュレーションを継続した。特に光子光子衝突型加速器の強度増加にともなう重複事象の排除性能の検討を行い,散乱断面積の光子偏極依存性の検出可能性を見いだした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
検出器による粒子識別性能の研究に関して,2020年度に構築したCsIシンチレータ,GAGGシンチレータ,プラスチックシンチレータを組み合わせた検出器の性能を系統的に調べた。2020年度からデータ収集装置を改良し事象毎のデータ取得を可能とするなど,より実験状況に即した状況下での性能試験を行った。 信号事象識別の最適化に関しては,加速器の強度増加による重複事象の排除性能を調べ,日本物理学会2021年度分科会において発表した。さらに入射光子の偏極依存性という物理過程の性質の検証可能性を見いだした。これは従来の信号検出の可能性から,事象の物理的性質の検証に向けた成果である。 一方,中国科学院高能物理学研究所を訪問して実験の実現可能性について議論する予定であったが,2020年度に引き続き2021年も新型コロナウイルスの影響により訪問は断念せざるを得なかった。それに変えて,データ解析手法の研究および中国における実験実現可能性について遠隔ミーティングを行ない意見交換を行った。しかしながら2年にわたり遠隔による討論しかできないこと,また中国においても対面による討論が限られていることは,実験の実現可能性などについての詳細な討論やデータ解析に関する集中的な議論に制約がある。特に実験計画の実現に関する進捗は当初の計画より遅れ気味である。
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Strategy for Future Research Activity |
検出器による粒子識別性能の研究に関し,2021年度に構築したシンチレーション検出器の自動データ取得装置を用いた系統的な研究を継続する。現在は光検出器として光電子増倍管を用いているが,MPPCを導入しその性能を評価する。また現在1組である検出器を数台設置しより実機に近い状態を構築する。 信号事象識別の最適化に関しては,2021年の研究によって,信号検出から物理的性質の研究可能性を見いだした。それにともない統計的な検討のみでなく,データ解析に関する系統誤差の検討必要性も大きくなっている。2022年度は物理解析に関する系統誤差の検討を行う。また光子光子弾性散乱だけでなく,他の光子光子反応の検出に関しても研究を開始する。 とくに,光子光子散乱過程のルミノシティ(衝突頻度)の測定は,実験を行う上で必須の測定である。これに関して有力な物理過程は電子陽電子対生成であるが,この過程は光子光子衝突のエネルギーが1MeV以上の反応にのみ感度がある。そのため低エネルギーの光子光子衝突のルミノシティ測定についての検討も合わせて行う。 2021年度も中国科学院高校の物理学研究所を訪問と国際学会の出席が新型コロナウイルスの影響の為実施できなかった。本計画は2022年度が最終年度として申請しているが,この状況に鑑み2023年度も延長して実施することを検討する。
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Causes of Carryover |
2021年度も可能であれば,中国高能物理学研究所を複数回訪問し実験装置・加速器の設計,物理解析に関する討論および実験計画の具体化に関する議論を行うことを計画していた。しかしながら,新型コロナウイルスの状況により実行することができなかった。 測定器の性能試験について,シンチレーション検出器と光検出器を複数個組み合わせた試作器の構築を念頭においていたが,単体での性能調査に集中したたため,検出媒体の追加購入を見送った。 2022年度も同所を訪問する可能性を考えている。また米国滞在の研究者との議論を対面で行う可能性もありそのために旅費を執行することも考慮にいれている。測定器開発について,2022年は2020年度から2021年度に行った単体試験の状況をもとに,シンチレーション検出器と,光検出器の追加購入し複数個の組み合わせ試験を計画している。拡張の規模は前述の旅費との兼ね合いを検討する。
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