2021 Fiscal Year Research-status Report
融合ダイナミクスに起因する殻構造の変化を利用した未知超重元素生成の理論研究
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20K04003
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Research Institution | Kindai University |
Principal Investigator |
有友 嘉浩 近畿大学, 理工学部, 教授 (90573147)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 超重元素 / 安定な島 / 動力学模型 / ランジュバン方程式 / 新元素合成 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究実施計画に基づき本年度は、昨年度に整備したプログラムコードを用いて、新元素合成に関する様々な計算を行った。特に未知原子核である120番元素の合成を中心に、融合確率、融合過程の軌道解析とその反応メカニズムの解析、および残留核断面積の計算を行い、その妥当性を評価した。 変形空間でのポテンシャルの状況を詳細に解析し、殻補正エネルギーによる準安定な形状を見つけ出し、動力学模型における融合軌道が、準安定な状態、すなわちポテンシャル上のポケットにトラップされるかどうかについて、入射条件を様々に変化しながら解析を行った。融合過程における準安定な状態は、原子核の比較的大きく変形した地点に存在する。超重元素領域における融合反応過程では、標的核と入射核の同士の大きなクーロン反発により、大きく変形すると考えられ、軌道も同様に変形領域に向かう。この時、変形領域に存在するポテンシャルのポケットにトラップされる現象が見られた。このような軌道の存在確率や、どのような条件(入射核と標的核の組み合わせ、入射エネルギーなどの初期条件)の場合、より多くこの領域に到達できるのか、またトラップされるのかを試行錯誤で調べた。 原子番号120番元素を生成する場合、標的核による中性子過剰な核を使用するほうが、変形領域のポケットの地点と軌道の到達点が一致することを見出した。融合確率を算出し、スタンダードな統計模型コードを利用して蒸発残留核断面積を算出したが、まだ試算の段階であり、今後はこの手法で精度を上げていき、より現実的な実験の提案を行うことを目的とする。このような成果は、2022年3月の物理学会等で口頭発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度、実施計画に従って整備した3台のハイパフォーマンスコンピュータを駆使して、計算を行い、新元素合成の融合過程におけるダイナミクスの分析を詳細に行った。今回、未知原子核である原子番号120番原子核に対し、様々な入射核と標的核のコンビネーションを選び、また入射エネルギーを変えて融合確率の計算、軌道分析を行った。融合過程において、変形領域に現れるセカンドポケットに軌道がトラップされると、軌道が一時的に停滞した後、その位置から球形領域に向かう軌道が確認できた。このような軌道は、融合確率を増加する効果があると考えられる。このことから、セカンドポケットの位置と、軌道の到達領域の関係が重要であることが分かった。 今回の計算では、セカンドポケットにトラップされる軌道数や球形領域に到達できる軌道数をカウントし、それぞれの確率を導出し、定量的な議論を行った。また、生き残り確率を掛けることで蒸発残留核断面積の評価を可能とした。融合分裂反応のメカニズムを詳細に分析し、最適条件を導き出すという目標は達成されたと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
新元素合成の融合過程におけるメカニズムの詳細な分析は予定どおり達成できた。今後は、このメカニズムを利用した新元素の生成確率を高精度で評価する段階に入る。未知新元素として原子番号120番元素を扱ってきたが、122番元素やそれよりも原子番号の大きな原子核の生成可能性、および中性子課城郭を用いた場合の生成確率など、多角的に評価をしていく。中性子過剰な標的核を用いた場合、融合分裂過程における中性子放出による効果(温度低下と複合核の中性子数の変動によるポテンシャルの変化)をモデルに導入し、動力学過程にどのような影響を与えるかを評価する。 このような理論分析に対し、実際に利用可能な実験設備を念頭に置き、ビームの実現性や実用性などの評価を行い、実験研究の提案を行い、本研究の総括とする。
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