2021 Fiscal Year Research-status Report
星間塵を模した低温氷表面でのイオン衝突反応による核酸塩基の生成とその経路
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20K04045
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
岩本 賢一 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 講師 (00295734)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | イオン分子反応 / イオン移動度 / 核酸塩基 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は宇宙空間で観測されているイオンを用い、イオン分子反応と低温表面反応を組み合わせ、核酸塩基分子の生成機構を探索することを目的としている。本年度は昨年までに作製したイオンファンネル装置の評価、超音波気化装置の作製、メタステーブル源の開発に取り組んだ。これらの装置の役割として、イオンファンネル装置は気相イオン分子反応を行い、超音波気化装置は尿素分子の低温基板表面への蒸着分子の高密度化、メタステーブル源は基板上の分子の脱離に利用する。 まず、昨年作製したイオンファンネル装置を用いて気相イオン分子反応に関する対照実験を行った。その結果、樹脂の絶縁物から放出されたと考えられる極微量の水分子がイオンと反応し、目的以外の生成物が観測された。水分子の量を低下させるため、樹脂製の絶縁物をセラミック製とアルマイト製に変更する等の工夫をしたが、改善は見られなかった。一方、水分子と反応しないイオンについては、移動度分析の構造解析に問題ないことを確認した。 次に、メタステーブル源を開発した。開発初期段階では、放電時に多量の電子が放出され、メタステーブル粒子の生成と同時に電子イオン化が起こっていることが判明した。そこで、電子の加速を抑制するために、デフレクターや電子追い返し電極を追加設置し、それらの適切な電圧値を探索することで、電子イオン化を抑制した。その結果メタステーブルの安定生成時間が10時間程度にまで大幅に延長された。 室温温度条件下で蒸気圧が低い試料を気化させるために、超音波気化装置の作製を行った。18φの試験管に水溶液試料を充填し、市販の超音波装置を利用した気化実験を行った。この実験から、ミストの発生時に粗密があることが判明した。構造解析実験ではイオンの長時間の安定性が重要となるため、現状の粗密な気体をそのまま使用することはできず、長時間安定した気化分子を作製する条件を検討中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本実験を行う前段階の気相イオン分子反応による対照実験を行ったところ、予期していない水分子の付加イオンが観測された。水分子の存在量を低減するために装置改良を行い、予備実験を追加したため、研究が遅れた。現在は、水分子混入の影響を受けない実験系を対象に予備実験で改良した装置を使用して、研究を継続している。 気化装置については問題点が明らかになったため、対策を行った装置を作製しており、追加実験を行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
開発が遅れている気化装置の開発を急ぐ。現在の問題点として、気化チャンバーの容量が小さい為、ミストの密度の濃淡が影響していると考えられる。これを解消するために、気化チャンバーの大型化、ガスフロー装置の追加、気化試料の高温温度制御を行う。水溶液の試料を気化することで熱分解反応が抑制できるため、現状の方向で開発を継続する。さらに、低温基板の表面実験装置の作製を行い、これと同時並行して気相イオン反応による対照実験を行う。気相実験では尿素、アセチレン関連分子とカルボニル化合物を組み合わせた核酸塩基の生成経路を探索する。この対象実験の結果を踏まえて、低温基板表面に吸着させる分子を選定する。尿素を利用した核酸塩基の生成研究について、量子化学計算による核酸塩基の生成経路の論文が報告された。これらの報告例も利用し核酸塩基の生成実験を行う予定である。
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Causes of Carryover |
本研究で使用する低温装置の開発が遅れたため、その費用が繰り越しとなった。気化装置の改良が必要なため、この一部を気化装置の開発費用に利用するとともに、新しく開発している要素技術を組み合わせた低温基板の表面実験装置の作製に使用する。昨年度、対照実験を行った結果、予期せぬ反応が観測され、その対策を行うために開発が遅れた。当初の計画を見直したことにより発生した。
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