2020 Fiscal Year Research-status Report
数値シミュレーションを用いた土星の環のカッシーニ間隙形成過程の研究
Project/Area Number |
20K04047
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Research Institution | Kyoto Women's University |
Principal Investigator |
道越 秀吾 京都女子大学, 現代社会学部, 助教 (60572229)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 太陽系 / 土星 / リング / 数値シミュレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年度に観測終えたカッシーニ探査機は土星の環の多様な構造を発見したが,特にカッシーニ間隙に多くの未解明構造が残されている.本研究の目的は数値シミュレーションを用いて,土星の環のカッシーニ間隙形成の検証を行い,それに付随する微小構造の起源を明らかにすることである.本研究は解析理論と数値シミュレーションによって進める.現実の土星の環のシミュレーションを実行するためには,莫大な数の粒子が必要でかつ進化の時間尺度も非常に長いため,現在利用可能な計算機による完全なシミュレーションは不可能である.そのため,コードを十分に最適化の上で,現実の物理的性質を損なわないようにスケールの変換を行なった上で考察しなくてはならない.まずコードの最適化については,今年度はこれまで我々が用いてきたシミュレーションコードの全体の見直しを行い,拡張しやすいようにリファクタリングを行いつつ高速化を行った.また,シミュレーションに用いている数値積分アルゴリズムについて再検討を行い更なる高速化の手法を調べたが,年度内に完成しなかっため,実装は翌年度以降の課題である.次に理論面の解析であるが,衛星と環の相互作用に関する理論を用いて,衛星や環の物理パラメータに対する間隙の特徴の依存性を調べ,現実的な計算時間で実行可能な物理過程やパラメータについて調べた.その結果,現実的に数値シミュレーションが可能でかつ,物理過程を損なわないと考えられるパラメータセットが存在することが分かった.実際に幾つかのテストケースでシミュレーションを行なったところ,カッシーニ間隙が形成される前駆的段階に存在したと考えられるリンドブラッド共鳴による密度波のシミュレーションには成功した.しかし,間隙形成を完了するまでシミュレーションを進めるには至っていない.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の進捗として,計算コードの開発を進めこれまでに用いてきたコードのリファクタリングを行い拡張しやすくすると同時に高速化を行うことができた.しかし,初年度はGPUに対応した拡張するまではできなかっため,これは翌年度以降の課題である.また,シミュレーション結果の解析用プログラムの開発を行ない,基本的な環の密度構造の可視化や詳細なフーリエ解析などが可能となった.また理論面についてはカッシーニ間隙とリンドブラッド共鳴に関する先行研究を精査し,現実的なタイムスケールで間隙形成のシミュレーションを行うためのパラメータセットの検討を行った.それらのパラメータセットを用いて実際にシミュレーションを行い,リンドブラッド共鳴による密度波の形成やそれと相互作用すると考えられる粘性過安定の形成のシミュレーションを行うことができた.それらの構造は理論と整合する部分もあるが,従来考えられていなかった自己重力によると見られる微細構造が見られて,今後のより詳細な研究が必要である.また,リンドブラッド形成の前駆的段階であると考えられる密度波の形成は見られたものの,間隙形成やその兆候を検出するには至っていないため,更なる研究が必要である.
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Strategy for Future Research Activity |
シミュレーションコードの開発状況については,昨年度はコード全体の整理と高速化を行ったが,重力や衝突計算のGPU対応によって更なる長時間計算を可能とすることが課題である.そのため,今年度はGPUの計算機を導入しコード開発を行う予定である.また,数値積分部のアルゴリズムの改良できる可能性について昨年度はその方法の検討を行なったので,更なる研究を行い実装して実際に高速化が可能であるか検討を行う.また,解析用コードの開発についてては,いくつか基本的なツールの開発は昨年度に完了したが,今年度は,リンドブラッド共鳴点付近の構造を可視化・解析するためのツール集中的に開発を行うことを計画している.これは,本研究の最終的な目標の1つであるカッシーニ間隙の境界付近の複雑な構造の解明に有用であると考えられる.また,理論面については,昨年度行なったシミュレーションであるリンドブラッド共鳴による密度波と粘性過安定による構造について,従来理論によって説明が可能であるかを検証を行う予定である.特にシミュレーションで見られる密度波に付随する未解明の微細構造について詳細な研究を行う.
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Causes of Carryover |
当初計画では,計算サーバおよび解析サーバを年度内に導入する予定であった.しかし,世界的な需給の逼迫によってGPUのハードウェアが入手できずに開発に着手することができなかったため,度内に当初予定していた計算サーバを導入する状況ではなかった.そのため,繰越金が生じた.今年度は高速なシミュレーションを実行するためのGPUと解析のためのサーバとストレージを導入する予定である.
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