2023 Fiscal Year Research-status Report
Understaing the boundary between predictable signal and noise toward improvement of seasonal prediction
Project/Area Number |
20K04074
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
土井 威志 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 付加価値情報創生部門(アプリケーションラボ), 主任研究員 (80638768)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 季節予測 / シグナル / ノイズ / アンサンブル共変動解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年6月以降、記録的な降雨(標準偏差の4倍以上)により、パキスタンで大洪水が発生した。この数十年で最悪とされる洪水が同国を危機的状況に追い込み、パキスタン政府は正式に「国家非常事態」を宣言した。このような極端な大雨の発生を数ヶ月前から予測できていれば、被害を軽減できた可能性がある。 本研究では、JAMSTECアプリケーションラボの季節予測シミュレーション「SINTEX-F」を使って、2022年のパキスタンの大雨の予測可能性を調べた。 予測シミュレーションのアンサンブルメンバー各々の結果のバラツキに対し、何らかの物理的構造や制御プロセスを持つ「共変動」が無いかを調べた結果、パキスタンで降水量を多く予測しているアンサンブルメンバーでは、アラビア海北岸の正の海表面水温偏差を大きく予測されることを示しており、アラビア海北岸がパキスタンの大雨予測の潜在的根拠になり得ることが示唆された。その仮説を検証するために、二つの再予測実験、すなわち、アラビア海北岸のモデルの海水温を観測の絶対値にナッジングした予測実験と、同海域のモデルの海水温偏差を、観測の偏差にナッジングした予測実験を実施した。その結果、アラビア海北岸の正の海表面水温偏差が、パキスタンの大雨予測に寄与することがわかった。 更に、モデルの気候値では同海域に低温バイアスがあり、その改善が、パキスタンの大雨予測に寄与することもわかった。更に、パキスタンの洪水は、亜熱帯ジェットを導波管として遠隔影響し、中国の熱波や日本の猛暑に影響を与えうることも示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
シグナルとノイズの比(SN比: ここでは、アンサンブル平均値をシグナル、アンサンブルスプレッドをノイズとして、その比で定義した)の経年変動に注目し、SN比が高い年のみを対象に相関係数スキルを計算すると精度が高く傾向にある。SN比などを使って、各々の予測の信頼度に踏み込んだ情報を提供することで、ユーザー側が季節予測結果をさらに深く理解し、その適切な利活用を促進するための一助になると考える。特に、2021年の東アフリカ干ばつには負のインド洋ダイポールモード現象が、2022年のパキスタン洪水には、アラビア海北岸の高水温が寄与しており、統計的に見積もられるスキルよりも、信頼度の高い予測が可能であることを示した。また、中国揚子江盆地の極端な厳冬の予測についても同様の解析を進め、熱帯インド洋西部のや熱帯太平洋の水温が、2018・19年の厳冬や1997・98年の厳冬の予測に寄与していたこと見出した。一連の研究は、windows of opportunityを見つけることにも繋がり、更に研究を進めることで、信用があり行動につながるような早期警戒情報の創出を目指していく。
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Strategy for Future Research Activity |
シグナルとノイズの比が大変小さい北西太平洋の熱帯低気圧の存在頻度についても、アンサンブル相関解析を進め、予測しやすいイベントと、予測がしにくいイベントについて理解を深める。また、window of opportunityを生み出す制御プロセスを特定するとともに、予測の改善につながるヒントを見出す。また、シグナルとノイズの比やアンサンブル共変動解析からwindow of opportunityをユーザーに示すようなリアルタイム予測情報発信の仕方を考察し、それを実現する。
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Causes of Carryover |
想定よりも順調に研究が進み、新たに論文を発表する機会の目処が立ったため、当該年度の旅費を、次年度の論文の出版費に使用する予定である。
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