2020 Fiscal Year Research-status Report
噴気に由来する全物質分析による火山活動予測:水蒸気噴火の準備過程の解明
Project/Area Number |
20K04081
|
Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
齋藤 武士 信州大学, 学術研究院理学系, 准教授 (80402767)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
網田 和宏 秋田大学, 理工学研究科, 助教 (20378540)
大沢 信二 京都大学, 理学研究科, 教授 (30243009)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 水蒸気噴火 / 熱水 / 噴気 / 地磁気 / 自然電位 |
Outline of Annual Research Achievements |
地球物理学的観測に基づく火山活動予測が一部の火山で成功を収めるようになってきたものの,小規模な水蒸気噴火による災害は後を絶たず,その活動予測は火山学に残された課題の一つである。本研究では,「水蒸気噴火はどこでどの様に準備され,トリガーされ,噴火へと至るのか?」という問いに対し,火山から放出される物質の中で最も移動速度が速い噴気(火山ガス)から,山体内部を探り,次の火山活動を推測する手法の提案を目指す。長野県と岐阜県の県境に位置する焼岳は1963年の水蒸気噴火以降静穏な状態を維持しているが,活動の活発化が懸念される活火山である。本研究では静穏な現在からデータを蓄積することで,次の噴火に備えるとともに,山体内部のマグマー熱水の相互作用とその変動システムの解明を目指す。2020年度は新型コロナウィルス感染症拡大の影響に加えて,4月末から焼岳北東で発生した群発地震活動による登山道・アクセス道路の崩落,7月の長雨と豪雨災害による道路の通行規制などの影響を受けて,7月末まで研究を進めることができなかった。8月以降に本格的な研究活動を行い,火口観測,噴気観測,噴気採取,地磁気観測を行い,水・ガス試料の化学分析を行った。主な化学成分に大きな変動は認められなかったものの,北峰南に位置する噴気の温度と流量が低下しており,また地磁気観測結果と合わせて考えると,山頂北西に位置する黒谷火口の活発化と連動して山体内部で噴気が黒谷火口へ供給されている可能性が考えられる。新たに山頂から南麓にかけて自然電位測定を行い,噴気や地下の熱水の挙動に由来する変動を捉えるとともに1Vにも達する電位変化を見いだした。また検知管を利用した水蒸気, 二酸化炭素, 硫化水素, R-gas(残留ガス)比を測定する簡便法の構築を試み,その有効性を検証した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は新型コロナウィルス感染症拡大の影響に加えて,4月末から焼岳北東で発生した群発地震活動による登山道・アクセス道路の崩落,7月の長雨と豪雨災害による道路の通行規制などの影響を受けて,7月末まで研究を進めることができなかった。その影響で,当初シーズンに複数回の試料採取を予定していた噴気採取は,研究対象としている北峰南噴気と1962-63年火口噴気ともに各1回の試料採取しか行うことが出来なかった。しかし,8月以降精力的に研究を行い,山頂周辺に分布する噴気の調査を広範囲で行い,初めて南西の岩坪谷噴気へアプローチすることが出来た。急峻な地形のため噴気採取は困難だが,噴気の様子を確認できたことは大きな収穫であった。また,山頂周辺の地磁気観測を行うとともに,共同研究者の網田の協力で初めて自然電位測定も行うことが出来た。時間的制約のため,自然電位測定は山頂から南麓の中腹にかけてまでしか行えていないものの,噴気・熱水システムの挙動に由来する電位変化を見いだしており,加えて1Vにも達する電位変化を確認した。また共同研究者の大沢の発案による検知管を利用したガス比測定の簡便法にもトライし,焼岳の噴気データからその有効性を確認することが出来た。焼岳火山のマグマ-熱水系に多角的アプローチで迫ることができつつあり,冒頭のコロナ等の影響を踏まえれば順調に進捗していると判断している。しかし,当初予定していた噴気からの固体物質の探索は進めることができておらず,次年度の早い段階で研究計画を見直したいと考えている。
|
Strategy for Future Research Activity |
2021年度は継続して噴気の観測と試料採取,地磁気の観測を行い,静穏期のデータを蓄積するとともに,山体内部のマグマー熱水系に由来する変化を探る(齋藤担当)。ここ数年の研究により,定量的な議論ができる程度のデータが蓄積されてきた。この間の焼岳は黒谷火口の活発化や群発地震活動など,噴火へとは至っていないものの細かな活動変化が認められている。それらの変化と蓄積されたデータとを検証することで,マグマー熱水の相互作用とその変動システムの解明を目指す。その補助として,地磁気観測と自然電位測定といった地球物理学的観測を行う。特に2020年度に行った自然電位測定からは興味深い結果が得られており,2021年度は測定範囲をさらに広げて行うことで,空間変化をおさえるとともに,可能であれば測定を繰り返すことで時間変化を検証する(網田と齋藤担当)。また検知管を用いたガス成分分析法の拡張にも挑戦する(大沢と齋藤担当)。新型コロナの影響で予定していた学会(IAVCEI)の開催が延期されているが,関連学会での発表を積極的に行い,本研究の進展を加速させたい。
|
Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症のため,参加を予定していた学会が延期,あるいはオンラインでの開催になったため,それらの旅費が使用されなかった。また新型コロナウィルス感染症のため,予定していた県をまたいだ分析のための出張,研究打ち合わせの出張も行わなかった。コロナに加えて群発地震活動や豪雨災害の影響で野外調査も8月まで行うことができず,それらの旅費も使用されなかった。新型コロナウィルス感染症の状況次第ではあるが,次年度以降の出張旅費として使用したい。
|