2021 Fiscal Year Research-status Report
噴気に由来する全物質分析による火山活動予測:水蒸気噴火の準備過程の解明
Project/Area Number |
20K04081
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
齋藤 武士 信州大学, 学術研究院理学系, 教授 (80402767)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
網田 和宏 秋田大学, 理工学研究科, 助教 (20378540)
大沢 信二 京都大学, 理学研究科, 教授 (30243009)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 水蒸気噴火 / 熱水 / 噴気 / 地磁気 / 自然電位 |
Outline of Annual Research Achievements |
地球物理学的観測に基づく火山活動予測が一部の火山で成功を収めるようになってきたものの,小規模な水蒸気噴火による災害は後を絶たず,その活動予測は火山学に残された課題の一つである。本研究では,「水蒸気噴火はどこでどの様に準備され,トリガーされ,噴火へと至るのか?」という問いに対し,火山から放出される物質の中で最も移動速度が速い噴気(火山ガス)から,山体内部を探り,次の火山活動を推測する手法の提案を目指す。長野県と岐阜県の県境に位置する焼岳は1963年の水蒸気噴火以降静穏な状態を維持しているが,活動の活発化が懸念される活火山である。本研究では静穏な現在からデータを蓄積することで,次の噴火に備えるとともに,山体内部のマグマー熱水の相互作用とその変動システムの解明を目指す。2021年度はこれまで噴気採取を検討してこなかった,勢いの弱い噴気からの試料採取に挑戦し,噴気試料を採取することに成功した。得られた噴気は大気の混入を受け,凝縮水は同位体分別の影響を受けているものの,火山ガス成分も保存されていることが分かった。勢いの弱い噴気からも試料採取が行えることが分かったので,今後,研究領域をさらに広域に広げて研究を行う予定である。2020年度に引続き,自然電位測定を行い,山頂を跨ぐ南北約6kmの電位分布を得た。山頂噴気下へのマグマ性流体の上昇と,1962-63年火口下に熱水系が発達している可能性を示す電位変化が得られた。また広域的な電位プロファイルは山頂の北側と南側で大きく異なり,南北での地質構造の違いによる地下水流動パターンの違いが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度はこれまで研究対象としてこなかった勢いの弱い噴気(醇ヶ池火口噴気)からの試料採取を試みた。試料採取中の大気の混入を避けるために噴気孔周辺の空間を可能な限り埋め,噴気孔と試料採取容器の間に通常設けるバイパスを設けずに採取することで,大気(O2)の混入が通常の噴気(北峰南噴気など)採取と同程度まで押さえることができた。得られた試料はN2,Arに富み,試料採取以前の噴気帯内部で大気が混入している可能性は否定できない。しかしSO2/H2Sは山頂南などと比べて高く,凝縮水の同位体値も大気とマグマ水の単純な混合では説明できず,マグマ性流体と大気が噴気帯の下で複雑に混合している可能性があることが分かった。自然電位測定は,昨年行った山頂南側の測線を拡張するとともに,北側へ測線を延ばし,南北約6kmでの電位分布を得た。北峰南噴気ではマグマ性流体の上昇に対応すると考えられる局所的な正の電位異常が認められた。北峰北斜面では1962-63年火口をまたぐ約230mの正の電位異常が認められ,火口下に熱水系が発達している可能性が電位観測からも示された。また,山頂の北側では中尾登山口まで顕著な電位低下が認められず,活火山に典型的なV字の電位プロファイルを示さないことが分かった。焼岳の北麓と南麓での地質構造の違いによる地下水流動パターンの違いを反映している可能性がある。昨年度に引続き,南西斜面の岩坪谷噴気の観察を行った結果,噴気の勢い,温度上昇の可能性が示された。また,他の噴気孔よりも高いSO2/H2Sを有することが分かった。山頂南西斜面下には熱水系が未発達で,熱水の影響を受けずに水溶性ガスが放出されている可能性がある。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度も継続して噴気の観測と試料採取,電位の観測を行い,静穏期のデータを蓄積するとともに,山体内部のマグマー熱水系に由来する変化を探る(齋藤担当)。ここ数年の研究により,定量的な議論ができる程度のデータが蓄積されてきた。この間の焼岳は黒谷火口の活発化や群発地震活動など,噴火へとは至っていないものの細かな活動変化が認められている。それらの変化と蓄積されたデータとを検証することで,マグマー熱水の相互作用とその変動システムの解明を目指す。その補助として,地磁気観測や自然電位測定と行った地球物理学的観測を行う。特に2020-21年度に行った自然電位測定からは興味深い結果が得られており,今年度は測定範囲をさらに広げて行うことで,空間変化をおさえるとともに,可能であれば測定を繰り返すことで時間変化を検証する(網田と齋藤担当)。また検知管を用いたガス成分分析法の拡張にも挑戦する(大沢と齋藤担当)。新型コロナの影響で予定していた学会(IAVCEI)の開催が延期されているが,関連学会での発表を積極的に行い,本研究の進展を加速させたい。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染症の影響のため,観測のための移動が減り,研究集会がオンラインとなり,噴気分析も人の移動を伴わず現地に依頼することとなったため,旅費が大幅に残ることとなった。参加を予定していた国際学会(IAVCEI)も延期となり,その出張旅費も未使用となった。繰り越した研究費については,コロナウィルス感染症の推移を見ながら,県をまたいだ移動が再開され,学会が対面で行われるようになれば,その出張旅費として使用していきたい。
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Research Products
(1 results)