2021 Fiscal Year Research-status Report
沈み込みスラブの熱伝導率の研究 -下部マントルの温度不均質構造の解明に向けて-
Project/Area Number |
20K04110
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
出倉 春彦 愛媛大学, 地球深部ダイナミクス研究センター, 講師 (90700146)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 地球下部マントル / 温度構造 / 熱伝導率 / 第一原理計算 / 格子動力学法 / 分子動力学法 |
Outline of Annual Research Achievements |
地球内部の温度は現在でも不確かな物理量の一つである。地球マントル内の温度構造は主に2つの地球内部活動により形成されていると考えられている。一つは,熱伝導による熱輸送が支配的である沈み込みスラブ由来によるもの,もう一つは,対流熱伝達が卓越するマントルの対流活動によるものである。スラブ・マントルの両者の鉱物組成ならびに熱輸送機構の違いを反映して,マントル内部は極めて不均質な温度構造が実現していると考えられている。本研究では,高精度な理論予測手法の一つとして知られる第一原理計算技術を駆使して,沈み込みスラブ上面の玄武岩組成層の構成鉱物および中・下面のパイロライト構成鉱物の格子熱伝導率を下部マントル条件で決定し,スラブの沈み込みに由来する下部マントルの温度不均質構造の制約を目指すものである。 当該年度は地球深部におけるMORBの構成鉱物のSiO2およびCaSiO3ペロブスカイトに対する第一原理計算を実施した。SiO2については,その格子動力学特性(格子振動数・格子波の速度・比熱)および格子波-格子波相互作用にともなう格子波の減衰特性を決定し,これらの熱物性値を用いたフォノン-ボルツマン方程式を解くことで核-マントル境界にいたる高温高圧条件下における格子熱伝導率を決定した。 CaSiO3ペロブスカイトについては高温相の熱伝導率の決定のため,分子動力学計算に基づく有効温度ポテンシャル構築法の実装をすすめた。併せて高温高圧下におけるMDシミュレーションを実施し,原子の運動の解析からその有効ポテンシャルを決定することで,慣用的な第一原理計算法では得ることが難しい等体積下の温度依存フォノン特性について予察的な結果が得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
スラブ構成鉱物の第一原理格子熱伝導率計算について,SiO2の高圧多形の熱伝導率計算がすみやかに進展したこと,ならびに,高温でのみ安定となる立方晶CaSiO3の格子動力学特性の決定のための手法の実装が順調に推移した。これらの理由から,本課題はおおむね順調に進捗していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度はSiO2の高圧相の格子熱伝導率計算,CaSiO3の第一原理分子動力学法に基づく非調和動力学計算法の実装を進めた。次年度も引き続きスラブ構成鉱物の熱伝導率の第一原理計算研究を推進する。特に,CaSiO3の有効ポテンシャル法による非調和格子動力学特性の決定に向けたポストプロセッサの拡充を目指す。また,スラブ構成鉱物の主要な相と考えられている鉄が固溶したブリッジマナイト・ポストペロブスカイトの熱伝導率研究のさらなる推進を目指す。これらの熱輸送特性を決定することで,沈み込みスラブの有効熱伝導度の決定とともに沈み込みスラブ由来の地球内部温度構造の理解の推進を目指す。
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Causes of Carryover |
学会参加登録費用(22000円,2022年度地球惑星科学連合)の経費執行時期が次年度となり経費執行できなかったことによる。それを今年度に支払う予定である。残額3000円弱はコンピュータ関連の消耗品の購入に充てる予定である。
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