2020 Fiscal Year Research-status Report
極限環境域に適用可能な小型高性能広帯域地震計の開発と耐環境調査
Project/Area Number |
20K04112
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Research Institution | The University of Aizu |
Principal Investigator |
山田 竜平 会津大学, コンピュータ理工学部, 准教授 (60647379)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
浅利 一善 国立天文台, RISE月惑星探査プロジェクト, 研究技師 (40321583)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 地震計 / 極限環境 / 負帰還回路 / 地震観測 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、人が容易に立ち入れない極限環境域(火山地域、海底、極域、月惑星)に適用可能な小型・高性能の広帯域地震計を開発することである。この地震計は、研究代表者がこれまで宇宙機搭載用として開発してきた小型短周期地震計をベースとしており、先行研究で地震計の固有周期を1秒から30秒に拡張できる広帯域化のための負帰還回路を設計・開発することができた。 これまでの研究から、開発した固有周期30秒の広帯域地震計を用いて、大きな地震イベントを観測できる事を確認できた一方、周期10秒以上の長周期側のノイズが大きく、長周期側の観測性能に問題がある事も分かった。この原因の一つとして、負帰還回路で長周期側の感度を上げ過ぎる事で、長周期側のノイズが必要以上に増幅されている可能性が考えられた。そこで、本研究では、まず、固有周期を30秒よりも短くすることで、長周期側のノイズレベルがどの程度低下するか調査を行う事にした。 広帯域地震計の固有周期は負帰還回路の回路定数の調整を行うことで、変更することができる。そこで、2020年度はまず、固有周期10秒と20秒を実現できる回路の設計と製作を行った。そして、実験室での調査において、開発した回路を地震計に接続して、設計通りの周波数応答を示すことを確認できた。また、開発した固有周期10秒、20秒の回路と地震計を国立天文台水沢の江刺地球観測施設に持ち込み、地動応答観測試験を実施し、観測データが取得できる事を確認した。 一方、調査試験の過程で、固有周期を負帰還回路で延ばすと、設計通りの周波数応答を実現する地震計の振り子の傾斜範囲が極めて狭くなる事も分かった。この地震計の中立を実現する傾斜範囲の詳細な調査と中立保持手法の検討も次年度以降の重要な課題となる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2020年度は、研究代表者が、当該年度より所属を始めた研究施設(福島ロボットテストフィールド)において、新たに地震計の実験環境を確立する事と、固有周期を従来の30秒よりも短くした10秒、20秒の負帰還回路を設計・製作して性能調査を行う事を目的としていた。現状、新しい研究施設での実験環境を確立でき、設計通りの負帰還回路を製作して、性能調査を実行できたので、概ね予定通りに開発、研究を進められていると言える。一方、調査結果のデータ解析や分析がやや遅れており、最終的な負帰還回路の設計が確定できていないので、その課題を2021年度早期に進める。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度の研究実施目標は、大きく3つとなる。1つは前年度に取得した広帯域地震計の性能調査試験データの解析、分析を進め、地震計に使用する負帰還回路の設計を確立すること、2つ目は広帯域地震計の中立を実現する傾斜角度範囲の詳細調査を行うこと、そして、3つ目が回路の小型化と周辺真空化によるノイズの低減度を調査することである。 まず、現状の性能調査試験データの解析結果から固有周期10秒、20秒の回路を使用しても、長周期ノイズが依然卓越している事が見られる。これは、回路に使用しているOPアンプに起因している事も予測されるので、未解析データの分析を進め、OPアンプを変更した追加調査等も行い、負帰還回路として使用すべき回路設計を確立させる。 また、広帯域地震計の設計通りの応答を実現する中立角度範囲が極めて狭いため、長期観測においては応答が不安定になりうる。そこで、地震計の傾斜角度を変更しながら周波数応答を調べる事と、レーザ変位計で傾斜に伴う振り子の変動を詳細に調べる事で、観測時にどの程度の傾斜角を保持すべきかを明らかにする。そして、その中立位置の保持手法についても検討を行う。 広帯域地震計のノイズ低下のためには、ノイズの混入経路を減らすための負帰還回路の表面実装品を用いた小型化と、大気が地震計振り子を振動させる事で生じるブラウンノイズを低減させるための振り子周辺の真空下も有効であると予測している。2021年度には、これらの実験も行い、各対策がどの程度ノイズ低減に有効であるか調査する。 なお、本研究で当初計画している広帯域地震計の温度特性調査(高温時と低温時での周波数応答調査)、耐衝撃調査は2022年度に実施する予定である。
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Causes of Carryover |
2020年度はコロナ禍により、出張の機会が当初予定していたよりも少なくなったこと、また、先行研究で使用していた物品の流用により、新規購入物品が抑えられたので、当初よりも少ない金額で研究を推進することができた。 次年度は、前年度の繰り越し分も使用して、広帯域地震計の中立傾斜角度の調査のために必要な物品を新規に購入する予定である。また、低ノイズ化のための小型負帰還回路の製作は、メーカー依頼にするため、その製作費にも使用する。 加えて、中立傾斜角度調査に使用するレーザー変位計と地震計周囲の真空を実現する小型チャンバーと真空ポンプは神奈川県相模原の宇宙科学研究所の所有機材が使用できる。そのため、次年度はコロナの状況を見つつ、相模原への数回の出張を行う予定であるので、その出張費を計上する。また、次年度に製作する小型負帰還回路を用いた地動観測試験を岩手県奥州市の江刺地球潮汐観測施設で行うため、奥州市への出張費としても使用する予定である。
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