2021 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K04149
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
生形 貴男 京都大学, 理学研究科, 教授 (00293598)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 機能形態空間 / 個体発生軌道 / 外殻性頭足類 / 静水力学特性 / アロメトリー |
Outline of Annual Research Achievements |
アンモノイドの殻形状は成長と共に変化するのが一般的である。こうした個体発生変異に伴い殻形態の静水力学特性ならびに流体力学特性がどのように変化するのかに注目して,これら機能特性に最適な個体発生変異パターンを理論形態モデルを用いて探索し,実際のアンモノイドに見られる個体発生変異の多様性とその偏りが上記機能特性でどこまで説明できるかを考究することが本研究の目的である。 昨年度は,アンモノイドの様々な不等成長パターンを統一的に表現できる理論形態モデルを考案したが,今年度は,この不等成長モデルに基づいて体全体の比重と浮心(体積中心),重心(質量中心)を成長段階毎に計算する方法を確立した。また,静水力学特性として,カメラル液を排出した状態で中立浮力を実現する体房の体積比によって比重の重くなりにくさを,浮心と重心の距離を体積の立方根で割った値で姿勢の安定性を評価した。その結果,比重の大きくなりにくさと姿勢の安定性の個体発生変化パターンを,様々な個体発生軌道毎に比較できるようになった。 上記の不等成長モデルは,螺旋の半径に対する,螺旋の長さ,殻口の高さ,殻口の幅の成長の速度とタイミングに関するパラメータから成る。螺旋の長さが相対的に長いほど巻は密になる。そこで,実際のアンモノイド30種の化石試料で,螺環半径に対する,半周前の螺環半径,殻口の高さ,殻口の幅のアロメトリーを解析した。その結果,成長と共に巻きが緩くなる種ほど殻口の高さが正,幅が負のアロメトリーを示す傾向が見いだされた。こうした傾向は,不等成長モデルで殻口の高さの成長停止のタイミングを変えるだけで定性的には再現することができる。この場合,他の成長パラメータを変えた場合に比べて,比重の重くなりにくさも姿勢の安定性も個体発生変異があまり大きくならないことが予察的なモデル計算から示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度はアンモノイドの不等成長を表す理論形態モデルを導入したにも関わらず,静水力学特性や流体力学特性は等成長モデル(つまりRaupモデル)を用いて成長段階毎に近似的に算出していていた。本年度は,導入した不等成長モデルを用いて体全体の浮心と重心の個体発生変異を計算することをめざした。当初は螺環が包絡する曲面の式を導出して体積と表面積を求める方針で検討したが,この方法が現実的でないことがわかったので,各成長段階のスライス断面毎に螺環断面積と重心,殻体部分の断面積と重心を計算し,それを数値積分することで近似的に体積,質量,浮心,重心を計算する方法を確立した。また,静水力学特性については,前年度には比重の重くなりにくさの代替指標として比表面積を評価していたが,今年度は中立浮力を実現するための体房体積比というより物理的・生物学的な意味が明確な機能特性を直接評価する方法を考案し,姿勢の安定性と共に,機能特性の個体発生変化パターンを個体発生軌道毎に評価することに成功した。 実際のアンモノイドの個体発生変異の解析では,単一個体の殻断面で縦断アロメトリーを解析したが,殻内部まで保存されている試料を用いる必要があったために,成体に比べてかなり小さいサイズの個体ばかりになってしまった。これを補うために,中~大型の化石試料で外形が変形していないものを選び,さらに文献に図示された試料の写真も利用して計測値を加えた。その結果,縦断アロメトリーと横断アロメトリーの混合データとなってしまったものの,ほとんどの種で両対数スケールで回帰直線に良く乗る計測データが得られ,ほぼ孵化直後から成体に至るまでをカバーしたデータに基づく種毎のアロメトリー特性を評価することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2年次までの研究で,不等成長モデルを考案し,そのモデルに基づいて静水力学特性を評価する方法を確立し,実際のアンモノイドの様々な種で個体発生軌道を評価した。しかしながら,採用した不等成長モデルは,殻形態を直接表す古典モデルではなく,絶対成長の基礎方程式のパラメータに基づいて殻形状を再現するモデルなので,今のところ描かれた理論形態と実物の計測データを定性的に比較しているに過ぎない。両者を接続するためには,実物あるいは実測データからその種の成長の速度やタイミングに関するパラメータの値を推定する必要がある。そこで3年次には,直接実測可能な測定項目のデータセットから,絶対成長のモデルパラメータの値を推定する逆解析を実行する。その上で,静水・流体力学特性がアンモノイドにおける各形質の成長特性の多様性を制限しているかどうかについて総合的に検討する予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症蔓延のため,出張を見合わせたことによって旅費を消化しなかった。データ解析用ソフトウェアーの購入等に宛てる予定。
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