2020 Fiscal Year Research-status Report
Multiscale management method to reduce the risk of age-related degradation of energy plant components
Project/Area Number |
20K04177
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
森下 和功 京都大学, エネルギー理工学研究所, 准教授 (80282581)
|
Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
Keywords | 照射損傷 / 原子炉材料 / 核融合炉材料 / カスケード損傷 / 分子動力学 / 欠陥生成 / 原子間ポテンシャル |
Outline of Annual Research Achievements |
照射材料では、高速中性子等の照射により、非平衡の欠陥が高密度に形成される。本研究では、Fe中の非平衡点欠陥の生成プロセスを分子動力学法により定量的に評価することを試みた。 まず、分子動力学法で使用する原子間ポテンシャルの妥当性の検討を行った。2000年以前に発表されたポテンシャルについてはすでにレビューされているので、今回我々は、2000年以降に発表された原子間ポテンシャルを対象に、それぞれの特徴を比較してみた。比較にあたっては、格子定数、凝集エネルギー、弾性定数、融点、欠陥形成エネルギー(空孔形成エネルギー、移動エネルギー)、カスケード損傷による欠陥生成率に着目した。カスケード損傷の際の欠陥挙動(はじき出し挙動や再結合挙動など)は,材料物性に強く依存することが示された。Tersoff タイプ,EAM タイプのOlsson, Mendelev、および、それらの派生ポテンシャルについて、物性値及び欠陥エネルギー論は、実験値やab-initio計算値を精度良く再現できていることがわかった。カスケード損傷における欠陥生成挙動については、Mendelevポテンシャルが最も現実的な挙動を示すことが示唆された。 次に、このMendelevポテンシャルを用いて、カスケード損傷による欠陥生成数のPKAエネルギー依存性を求めたみた。通常この類の研究では、ひとつのPKAエネルギーあたり精々数個~10個程度のはじき出しの統計しかとられることはないが、本研究では、カスケード特性の統計的特徴を明らかにするために、ひとつのPKAに対して1000個のカスケードを模擬してみた。当然、同じPKAエネルギーでも生成欠陥数にゆらぎは見られるが、そのゆらぎ具合は、ガウス分布を示していることがわかった。これは1000カスケードものシミュレーションにより初めて明らかになった知見である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
大規模分子動力学計算において何よりも重要な原子間ポテンシャル関数のセレクションについては、2000年以降に出版された8つものポテンシャル関数の比較ができた。弾性的性質や欠陥エネルギーだけでなく、非平衡欠陥生成の比較まで行えたことは、今後の照射材料の研究に重要で、大変満足している。また、ひとつのPKAエネルギーあたり、1000個のカスケードシミュレーションを行い、欠陥生成挙動の統計的性質を知ることができたのは大変よかったと思う。こうした統計学の視点に立った評価は、これまで世界的に行われてこなかったので、欠陥生成数のゆらぎやサブカスケード構造の発達に関して、まったく新しい知見が得られたのは評価したいと思う。一方、CFD+FEMを用いたマルチフィジックスシミュレーションについては、照射脆化による脆性破壊の確率を求めることができた。この確率の大小で原子炉の安全を言及するのではなく、この数値を相対的に使って、保全の最適化に応用する方向性を示せたのは大変良かったと思う。この評価については、今年度、雑誌NED(Nuclear Engineering and Design)において発表することができた。ここでは、リスク値に基づいて冷却系の保全を最適化するための道筋ができたのは大変よかったと思う。ほぼ進捗は順調であるが、ただし、ベイズ統計の研究についてはあまり進捗がなかった。次年度以降の課題としたい。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度は2年目である。欠陥生成のカスケードシミュレーション研究を継続し、なんとか論文発表まで進めたいと思う。ミクロ構造変化については、反応速度論ベースのコードをMatlabで構築中であり、一定の進捗を得たいと思う。構造解析については、リスク評価における応力拡大係数の分布の表し方に工夫が必要であると感じている。次年度に進捗させたいと思う。核生成モデルについては、昨年度はほとんど成果がなく、計算に用いる欠陥エネルギー論の式の若干の修正にとどまった。このテーマについても、次年度以降しっかりと進めていこうと思う。
|