2020 Fiscal Year Research-status Report
遷移金属窒化物の相境界に基づく耐摩耗膜の創製および多層構造への展開
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20K04180
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
長谷川 裕之 佐賀大学, 理工学部, 准教授 (60403482)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 窒化物薄膜 / 微細構造 / 摩擦係数 / 耐摩耗性 / 耐酸化性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では,過酷条件で用いられる切削工具の長寿命化を可能にする遷移金属と窒素を含有するセラミック耐摩耗膜の開発とともに,耐摩耗膜の表面特性である微細構造・機械的性質・熱的性質の解明を目的とする.本年度は,耐摩耗膜の原料となるターゲットを放電プラズマ焼結法を用いて試作を実施し,複雑組成を持つ焼結ターゲットの作製手法を構築した.その後,得られた焼結ターゲットを用いて,窒化チタンアルミニウム(TiAlN)および窒化クロムアルミニウム(CrAlN)に第3金属元素(Si・Ni・W・Mo)を添加した遷移金属窒化物薄膜を高周波マグネトロンスパッタリング法により合成した.TiAlNおよびCrAlNは,Al含有量に依存して立方晶から六方晶に相変態が生じることで知られるが,本研究において,開発した薄膜は立方晶を呈し,最大で40GPaを超える硬度値を示した. 薄膜の摺動特性を摩擦摩耗試験機により評価したところ,薄膜の硬度値の上昇によりアブレッシブ摩耗が低減され,第3金属元素により良好な耐摩耗性を発現することができた.さらに,示差熱分析および熱重量分析により,室温から1400℃までの昇温過程における酸化挙動を分析した.Si・Niを添加した薄膜では,酸化反応のみが支配的に発生し,酸化による重量増加が確認できた.一方,W・Moを添加した薄膜では,昇温時に形成された酸化物が1200℃前後において昇華する現象が見られた.熱分析の結果より,Si元素は完全酸化を1400℃前後まで遅延させる効果を見出した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
従来にない複雑組成を持つ遷移金属窒化物膜の作製に成功し,X線分析・ナノインデンター・摺動試験機・熱分析を用いて,耐摩耗膜に求められる表面特性の主要部分を評価することができた.以上より,おおむね順調に研究計画を推進している.
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Strategy for Future Research Activity |
(1)現在までに得られた研究成果を踏まえ,作製条件の再検討ならびに最適化を実施する.初年度では,硬度値・耐摩耗性を中心に機械的性質を評価した.次年度ではこれらの評価項目に加え,密着性・弾性率の測定を実施する.そして,酸化挙動の解析では,昇温時に生じる動的な酸化挙動を明らかにしたため,次年度は,等温保持時の酸化挙動を熱重量分析を用いて進め,酸化の時間依存性を解明する.そして,研究期間2年間の成果をまとめ,耐摩耗膜の微細構造・機械的性質・熱的性質を体系的にまとめる. (2)最終年度では,切削試験による応用面での評価を実施する.応用試験では,切削工具に作用する切削抵抗をインプロセスで測定することを計画している.2021年度において,切削抵抗の構成成分である主分力・背分力・送り分力を測定する装置の試作を進める.
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Causes of Carryover |
研究室に保有する設備ならびに消耗品を活用することにより初年度の研究計画を遂行することができたため,次年度使用額が生じた. 本課題の耐摩耗膜の作製では,ターゲットと呼ばれる薄膜原料を必要とする.2020年度の研究活動では,公設試験研究機関で保有する放電プラズマ焼結装置を用いたが,現在,老朽化により冷却系統に不具合が生じ,利用中止の状態にある.利用再開時期が未定であり,研究計画に遅れが生じることから,次年度使用額および翌年度請求額を執行し,小型放電プラズマ焼結装置を購入する.
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Research Products
(1 results)