2020 Fiscal Year Research-status Report
射出成形品の力学的特性向上を目的とした配向制御手法と部品の軽量化設計手法の構築
Project/Area Number |
20K04201
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Research Institution | Kanazawa Institute of Technology |
Principal Investigator |
瀬戸 雅宏 金沢工業大学, 工学部, 准教授 (90367459)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 射出成形 / 繊維強化樹脂 / 配向制御 / 機械的特性 |
Outline of Annual Research Achievements |
地球環境問題および温暖化抑制の観点から,2050年までに二酸化炭素の排出を実質ゼロに抑制する方針が示された.このような背景のもと自動車をはじめとする輸送機器産業においては,燃料消費量の削減のため様々な取り組みが加速している.その一つとして自動車業界では,部品の軽量化技術の開発が積極的に行われている.軽量化技術としては,金属材料の樹脂化や繊維強化樹脂等の高強度材への置換があるが,これらの材料を用いた部品の設計では一般に均質材として設計される.しかし,実際の部品では特定の方向に荷重が作用する場合が多く,その方向に強度・剛性を発現することができれば,材料削減につながりさらなる軽量化の実現が可能となる.本研究では,繊維強化樹脂射出成形品に生じる力学的特性の異方性に着目し,その異方性を積極的に制御する方法を確立し軽量化を図ることを目的とする. 今期は,射出成形における繊維配向制御因子を明らかにすることを目的とした.具体的な取り組みとしては,制御因子として金型のゲート形状および樹脂材料に着目し,これらが繊維配向に与える影響について検討した.金型ゲート形状の影響については,ゲート部において意図的に縮小流ならびに拡大流になるように形状を設計し,製品部の繊維配向状態を定量的に評価した.その結果,ケート形状の変更によって成形品板厚中央層の繊維配向が変化することがわかった.その一方で,樹脂に含有される繊維の量によっても配向状態が大きく変化することが新たな知見として得られた.樹脂粘度の影響については,板厚方向各層における成形中の樹脂流速分布が樹脂粘度によって変化し,特に表面層におけるMD配向層(流れ方向配向層)の厚さを制御できることがわかった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今期は,成形品中の強化繊維の配向を制御するための制御因子を明確にすることを目的に研究を進めた.これまでに研究によって,金型内における樹脂流動速度を変化させることによって成形品板厚方向における強化繊維の流れ方向配向層の厚さが大きく変化することがわかっている.これは,樹脂が金型内を流れる際にキャビティ表面において金型冷却によって固化層が成長しながら流れるが,この固化層成長が樹脂流速によって変化するためであることが示された.この知見をもとに,今期はさらに繊維配向制御因子として,金型のゲート形状並びに樹脂粘度に着目して検討を行った.樹脂粘度の異なる2種類の繊維強化樹脂を供試材料として使用し,樹脂粘度が繊維配向に与える形状を検討した.その結果,固液境界層での繊維配向に影響を与えることがわかった.その原因を考察するために,金型内における樹脂流動挙動の可視化観察手法およびPIV法による樹脂流速の定量化技術を構築し検討した.その結果,樹脂粘度によって特に固液境界近傍での樹脂流速が異なることが明らかとなり,樹脂粘度も制御因子の一つであることが示された.その一方で成形品板厚中心の配向は変化が見られないこともわかった. 金型のゲート形状の影響においては,ゲートでの樹脂流動を変化させるため,拡大流ならびに縮小流となるゲートを新たに設計し,製品部の繊維配向に与える影響を検討した.さらに,繊維配向を詳細かつ定量的に評価するため,X線CTによる観察画像からガラス繊維を3次元的に抽出し定量的に配向を評価する技術を改良した.その結果,ゲート部における樹脂流動を変化させることで,製品部の板厚中心層での配向が変化することがわかった.その一方で,繊維の含有率によって配向が変化することも新たにわかった.この原因については,2021年度の計画を一部変更し,そのメカニズムの解明を行うこととする.
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度では,2020年度の研究によって新たな知見として得られた強化繊維の含有量が繊維配向に与える影響を検討する.現状での仮説として,含有量が少ない条件においては,繊維配向に与える樹脂流動挙動の寄与度が高く,ゲート部での形状や樹脂流動方向をコントロールすることで強化繊維を制御できると考えている.また,強化繊維の含有量が多い条件では,繊維配向に与える樹脂流動の影響の寄与度よりも繊維同士の干渉による影響が大きくなると考えている.そのため,2021年度において,当初の研究計画に加えて,繊維の干渉の影響を検討する.具体的には,繊維含有率をさらに詳細に変化させるとともに,強化繊維の長さも実験条件に加えて,繊維配向に与える影響を明らかにする.さらに射出成形数値シミュレーションにより,強化繊維の相互干渉パラメータを変化させた計算を実施し考察を進める. また,2021年度の研究計画である金型内における樹脂流動挙動(樹脂流速や固化層の成長)と繊維配向との相関をさらに詳細に検証し,成形品内の繊維配向を予測する手法を検討する.これまでの研究において,繊維配向制御は樹脂流動中の固化層成長が繊維配向状態に大きく影響することがわかっている.2021年度では,この固化層成長挙動を樹脂材料や成形プロセス条件によってどのように変化するかを可視化実験によって測定し,数値シミュレーションとの定量的な比較を実施する.また,伝熱工学に基づいて樹脂と金型界面における熱抵抗の実験的測定を行い,その結果を数値シミュレーションの境界条件として与えることによりシミュレーションにおいてより正確な物理現象を再現させて高精度化を実現する.技術的な課題として,成形プロセス中のキャビティ表面および樹脂表面の温度ギャップの高精度測定がある.この課題に対して現状を温度センサを変更し,高速高精度な温度測定方法を検討する.
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Causes of Carryover |
2020年度では当初130万円の予算を計上し,射出成形品の繊維配向に与える制御因子のうち,ゲート形状の影響を検討するため新たに金型ブロックの購入・加工費と材料費を主に計上していた.ゲート形状の影響においてはその影響度合いが不明確な点もあり,ゲート形状の条件を削減するとともに,本研究室所有の小型の金型に使用を変更したため,金型ブロックの購入,加工費は当初予算より安価に進めることができた.2020年度の研究成果において低含有率条件ではゲート形状の影響もみられることから,2021年度はゲート形状の影響を詳細に検討するため,新たに金型ブロックを追加購入する予定である.また可視化実験においても,成形中の固液境界近傍の樹脂挙動を詳細観察するために可視化システムの改良が新たに必要となった.その改良費用として2020年度の余剰予算を充当するする計画である.さらにゲート部における樹脂挙動が繊維配向に与える影響の考察のため,ゲート部での可視化観察も必要となる.その金型改造費および可視化のためのガラスブロックの購入費用として余剰予算を有効に活用する. なお2020年度においては,ガラス繊維配向の簡易観察として光学顕微鏡用の変更レンズを購入し光学顕微鏡により簡易的に観察評価する手法を検討した.
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Research Products
(10 results)