2021 Fiscal Year Research-status Report
多成分系-熱流動格子ボルツマン法対応の計算手法構築と燃料電池内の熱流動現象解明
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20K04284
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Research Institution | University of Toyama |
Principal Investigator |
瀬田 剛 富山大学, 学術研究部工学系, 教授 (50308699)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 数値流体力学 / ステファン・ボルツマン方程式 / 多成分系解析 / 熱流動解析 / 格子ボルツマン法 |
Outline of Annual Research Achievements |
自然対流における不安定振動は、レイリー数、プラントル数、境界形状等の僅かな条件の違いにより流動様式が大きく変化することが知られている。格子ボルツマン法に基づく高速高精度計算手法を構築し、燃料電池内触媒層の多孔質体内熱流動解析を行い、燃料電池の発電性能予想に利用可能な解析手法を構築する。固体高分子形燃料電池では、水素と酸素の化学反応で発生する熱により、電極面内に不均一な温度分布が発生し、燃料電池の運転の障害となる。本研究による解析により運転障害の低減化が期待される。自然対流は、ナビエ・ストークス方程式と温度方程式とが連成する非線形な系であり、更に、多成分系を考慮した場合、不安定性に対する解を線形安定性理論のみで導くことは困難であり、様々な計算条件に対し、数値解析により多成分系-熱流動現象を解明するしかない。多成分系自然対流解析に対する計算手法の構築のために、インターポレイティッド・バウンス・バック・スキームを適用し、曲面を有する境界における熱流動現象の高精度解析手法の提案に成功した。これにより、二重円筒管内自然対流解析や、多孔質体内自然対流解析に対し、境界条件が僅かに変化しただけで、振動様式がカオス的に遷移する自然対流の非線形現象の解明が可能になった。更に、水素や酸素が混在し、ステファン・ボルツマン方程式を満足する多成分系格子ボルツマン法を一種類の格子のみで解析可能な手法の提案に成功し、三次元計算におけるアルゴリズムの複雑化の問題を解決できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究の目的は、多成分系-熱流動現象解析に対応した格子ボルツマン法に基づく高速高精度計算手法を構築し、多成分系を考慮した場合の非線形熱流動現象を解明することである。水素や酸素が混在し、ステファン・ボルツマン方程式を満足する多成分系格子ボルツマン法に対する既存の手法では各成分の平均自由行程に従った格子間隔を設定するため、各成分に対し、格子間隔が異なる格子が、それぞれ、設定される。そのため、従来手法では、異成分間のクロス・コリジョン項の計算において、分布関数について空間補間を行う必要があり、三次元計算のアルゴリズムが複雑になる欠点があった。本研究においては、クヌッセン数に基づくチャップマン・エンスコッグ展開の代わりに、時間刻み幅に基づく展開を用い、ステファン・ボルツマン方程式を導出した。分布関数に対し空間補間の代わりに時間補間により、異成分間のクロス・コリジョン項の計算を行い、一種類の格子のみでステファン・マクスウェル方程式の解析が可能な多成分系格子ボルツマン法の提案に成功した。提案したモデルを用いた数値計算において、ロシュミット・チューブにおいてアルゴンが濃度勾配に逆行するアップヒル拡散の再現に成功した。ここで、ロシュミット・チューブ内で、アルゴン、水素、メタンの濃度を左半分の領域と右半分の領域で異なる初期条件を設定し、拡散を生じさせた。提案手法で計算した各成分の濃度の時間変化は、商用ソフトで計算したFLUENTの結果と一致することが示された。
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Strategy for Future Research Activity |
時間に関する内挿を用いることにより、一種類の格子のみで、多成分系を考慮したステファン・マクスウェル方程式の解析が可能な格子ボルツマン法の提案に成功したことで、アルゴリズムが簡略化できた。一方、本手法を提案した時期に、Chaiにより、他緩和時間衝突則を、格子ボルツマン法に導入することにより、時間に対しても、空間に対しても内挿を用いる必要がなく、一種類の格子のみで、ステファン・マクスウェル方程式の解析が可能な格子ボルツマン法が提案された。そのため、今年度は、Chaiによって提案された多成分系格子ボルツマン法を用い、モデル開発を進めることに変更した。また、一方、熱流動格子ボルツマン法に関しては、多緩和時間衝突則よりもより高精度なセントラル・モーメントを用いたモデルが提案されており、多緩和時間衝突則ではなく、セントラル・モーメントを考慮した熱流動格子ボルツマン法を開発する必要が生じた。矩形容器内自然対流振動流のようなベンチマーク問題の解析を行い、セントラル・モーメントで用いられえる緩和時間、多緩和時間衝突則で用いられる緩和時間に関し考察を進め、数値的安定性と計算精度に関する比較検証を実施する予定である。燃料電池の多孔質体構造に関しては、微細構造を疑似的にコンピュータで作成するか、または、ブリンクマンモデル等により抗力として考慮することで、多孔質体内の多成分系-熱流動格子ボルツマンモデルの定式化を進める予定である。
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Causes of Carryover |
コロナ禍の状況を考慮しながら、ハイスペックな計算機を購入する予定にしていたが、コロナ禍の収束の見通しが立たない状況にあった。また、研究協力者である山本恵一氏がパナソニック株式会社から日本ビラー工業株式会社へ異動となり、燃料電池に関する多孔質体構造等のデータを得る機会がなくなった。更に、研究代表者本人が、著書「格子ボルツマン法」の執筆と、オンラインに対応した就職担当等の学内外の業務にフォースが費やされ、研究に対するフォースがほとんど無い状況に陥った。格子ボルツマン法のモデル開発は、数年の経験を必要とするため、学部4年生しか在籍していない当研究室では、研究代表者一人で、モデル開発からプログラム開発まで全てを実施する必要があり、当初の予定通りに、研究を進めることは不可能であった。
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Research Products
(5 results)