2020 Fiscal Year Research-status Report
局在光子場による単一フォノン操作を利用した量子ナノデバイスの極限的熱散逸制御
Project/Area Number |
20K04307
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Research Institution | University of Yamanashi |
Principal Investigator |
石川 陽 山梨大学, 大学院総合研究部, 准教授 (10508807)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 熱制御 / フォノン物性 / 量子デバイス / 近接場光学 / 熱散逸 / 量子熱力学 / 非熱浴的環境 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、電子、光子、スピンなどの最小量子単位を用いた量子ナノデバイスにおいて、熱の最小量子単位である単一フォノンの操作による極限的熱散逸制御を確立し、その原理を量子ナノデバイスに組み込むことで、量子ナノデバイスの動作性能の向上を目指している。さらに、ナノスケールの熱の概念および熱の量子ナノ工学を創成することを目標とする。令和2年度は、ナノ構造における局在光子場を介した電子‐フォノン相互作用の解明を目標として研究を進めた。ナノ構造、光子場、フォノン系の三者の結合系に対する量子マスター方程式と電磁場に対するマクスウェル方程式をセルフコンシステントに解く理論手法に対して、基本的な枠組みを構築することができた。現状では、その基本理論の具体的なナノ構造に対する適用を試みている。さらに、量子ナノデバイスに対する理論モデルを設定し、数値シミュレーションによる量子ナノデバイスの動作評価手法を開発している。また、量子マスター方程式とマクスウェル方程式から成るセルフコンシステントな理論に対して、デバイス動作効率を評価するために必要な局所プローブによる測定効果を取り入れることができた。本研究は、非熱浴的環境を介して量子ナノデバイスの動作性能を向上させることを目指している。単一フォノン量子状態と同じく非熱浴的環境のひとつであるコヒーレントフォノンを用いた量子ナノデバイスにおける整流作用を発見することができた。また、量子ナノ系における熱散逸過程をより深く理解するために、量子熱力学の基本原理の探究も進めており、量子ナノデバイスの簡易モデルに対して、具体的に量子熱力学を適用することができた。以上の研究成果を抑えながら、さらに研究を進めることで、単一フォノン量子操作による極限的熱散逸制御の実現へつながるものと期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和2年度は「ナノ構造における局在光子場を介した電子‐フォノン相互作用の解明」と「局在光子場による単一フォノン操作を可能にする最適なナノ構造の検討」の二つを具体的な研究目標として設定し研究を進めた。現在までに、ナノ構造、光子場、フォノン系の結合系に対する非平衡量子マスター方程式を導出し、それを電磁場に対するマクスウェル方程式とともにセルフコンシステントに解く理論手法に対する基本的枠組みを構築することができた。さらに、構築した基本理論を具体的なナノ構造に対して適用して、最適なナノ構造を検討するための試みを進めている。現状では、最適なナノ構造を見出すには至っていないが、量子ナノデバイスに対する理論モデルを設定し、数値シミュレーションによる量子ナノデバイスの動作評価手法を開発している。そして、デバイス動作効率を評価するために必要な局所プローブによる測定効果を取り入れることができた。これは令和3年度に計画していた内容に関連したものである。以上より、令和2年度の計画内容に対する成果があがっており、さらに令和3年度の計画内容に関連する研究にも取り掛かっていることから、おおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度は、非平衡量子マスター方程式とマクスウェル方程式をセルフコンシステントに解く理論手法を具体的なナノ構造へ適用し、数値シミュレーションを用いてフォノンの二次相関関数を評価する。その評価結果より、単一フォノン量子状態を操作可能なナノ構造の最適設計条件を明らかにする。さらに、量子ナノデバイスの動作効率を評価する理論手法を確立させ、求めた最適条件を満たすナノ構造の理論モデルに対して、局在光子場制御の効果やデバイス動作効率に対する評価を試みる。最終年度では、令和3年度に続き、単一フォノン操作を利用した熱散逸制御による量子ナノデバイス性能向上の検討を進める。局在光子場を変調させてフォノンに対する二次時間相関関数とデバイス動作効率の関係を精査し、単一フォノン操作を用いた熱散逸制御による性能向上の可能性を探る。さらに、量子ナノデバイスの応用面に限らず、基礎研究としての意義にも注目し、熱の量子ナノ工学への応用の検討およびナノスケールの熱という概念の構築を目指す。研究過程で派生して得られた課題に対しても取り組みたい。本研究課題に対して基礎的な意味付けをする量子熱力学や、局所光子場を介した複数ナノ構造間で発生する非線形現象に対する研究を進め、量子ナノ系における熱現象に対する学術的な知見を得たい。
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Causes of Carryover |
【次年度使用額が生じた理由】 新型コロナウィルス感染拡大の影響で国際学会および国内学会がすべてオンライン開催となり、出張旅費(学会によっては参加費)の支出が無くなったため。また、研究進捗状況から判断して、当初の予定より安価なワークステーションを購入することができたため。 【使用計画】 新型コロナウィルスの終息状況にもよるが、2年目や3年目における学術論文や学会発表などによる研究成果の発信をより充実させるために使用する。また、今後の研究において、大容量の数値計算シミュレーションが必要になることも予想されるため、その際はさらにワークステーションを追加購入し、研究が滞らないように適切な環境を整えるために使用する。
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