2020 Fiscal Year Research-status Report
包摂水和物への低温プラズマ照射によるゲスト分子反応メカニズムの解明
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20K04328
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
向笠 忍 愛媛大学, 理工学研究科(工学系), 准教授 (20284391)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ハイドレート / 誘電体バリア放電 / 低温プラズマ / 化学反応場 / ダブルハイドレート / 二量化 |
Outline of Annual Research Achievements |
包摂水和物(ハイドレート)はその構造によりゲスト分子を規則的に,かつ高密度に配置することができるため,通常,気体や液体状態で行う化学反応とは異なる様相を呈すると考えられる.ハイドレート内における反応のメカニズムを明らかにすることが本研究の目的である.ハイドレートを維持した状態で低温プラズマである誘電体バリア放電(DBD)を照射する実験を行った.そのときの生成物を,ガスクロマトグラフ質量分析計を用いて調査した.ハイドレートの化学反応場としての特異性を確認するための対照実験として,ハイドレートを溶融させた水溶液または水相-油相分離液にDBDを照射させた場合との生成物について比較した.今年度使用したゲスト分子は,テトラヒドロフラン(THF),シクロペンタン,シクロヘキサン,トルエン,ベンゼンの5種である.これらのうち,シクロヘキサン,トルエン,ベンゼンは単独でハイドレートを形成しないため,メタンを導入したダブルハイドレートとした. 実験結果よりほぼすべてのゲスト分子において起きた反応は,水酸基置換反応と二量体生成であった.いずれの反応もハイドレート溶融液に照射した場合にもみられたが,生成割合に両者間の違いがみられた.水酸基置換物の生成割合とゲスト分子の物性との間で相関を見つけることはできなかった.水酸基以外にケトン基を持つ生成物も相当量みられたことから,水酸基が実験中または実験後に酸化してケトン基に変化したとみられる.今後はケトン基の生成について詳しく調査する必要がある.二量体生成は,シクロペンタンやシクロヘキサンではハイドレートでのみ生成したのに対し,THFではハイドレートに比べて溶融液で顕著に生成がみられた.このことはゲスト分子の水への溶解度が影響していると考えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ハイドレートへのDBD照射によって起きる化学反応について,同じゲスト分子の水溶液または分離液へDBDを照射した場合との違いについて実験的に明らかにすることを今年度の実施計画としていたが,おおむね達成できたといえる. 今年度実施した実験により新たな知見として次の2点が得られた.一つはアルデヒドの生成について,ハイドレートに照射した場合はアルデヒドはほとんど生成しなかったのに対して,水溶液または分離液に照射した場合は顕著に生成した.このことから,ハイドレートの場合は水酸基の置換反応からケトン基の生成まではみられるが,それ以上の酸化反応や分解を抑制する働きがあるとみられる.もう一つは,ハイドレートを化学反応場とすることにより,シクロヘキサンなどの非水溶性分子の二量化反応が容易に起きることである.二量化へのプロセスとして,まず分子の水素離脱反応が最初に起きるが,放電照射によってまわりの水分子から生成したヒドロキシラジカルがその役割を果たしていると考えらえる.次に水素離脱したラジカルは疎水効果により分子同士が集まりやすくなり二量化が起きると考えらえる.この場合,ハイドレートであることの効果は非水溶性分子の近傍に水分子が安定に存在できるという点である.一方で,このようなゲスト分子の反応時において水分子がどのようなふるまいをするか,そしてハイドレート構造は,崩壊するのか,再形成するのかなどは明らかになっていない.
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策として,次の3つを挙げる. ① ハイドレートを化学反応場とした場合の放電条件の最適化調査:これまではハイドレートとハイドレート溶融液との生成物の比較をするため,同一の放電条件で実験を行っているが,今後は放電条件を変えたときのハイドレートにおける生成物の生成量についての比較を行い,最適条件を検討する.パラメータとしては,照射時間,電極形状やハイドレートとの位置関係,最大電圧,周波数,極性などである. ② 数値解析による反応メカニズムの理論的な調査:前欄に記載したアルデヒドへの分解抑制効果や,二量体形成時における水分子の役割とハイドレート構造の変化について,分子軌道計算ソフトウエアGaussianを用いて明らかにしたい.特に,ゲージ内におけるゲスト分子の配向の違いによる反応への影響と,反応後におけるゲージへの影響(崩壊または再形成)についてシミュレートする予定である. ③ 本手法の実用化を考慮した市場におけるニーズ調査:現在は興味先行で研究を行っているが,非水溶分子の二量化が容易に起きるなどの特性がみつかり,本手法を何らかの反応に利用できるのではないかと考えている.このことと関連して,重合反応についても調査を行う.現在はGC-MSで測定可能な生成物のみを調査対象としているが,実際には液体の変色がみられるなど高分子も生成していると考えられる.今後の調査対象としていきたい.
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Causes of Carryover |
新型コロナ感染拡大の影響により,年度前半は研究遂行が困難であったため,放電条件の最適化を調査するための装置製作を断念したことから装置製作に必要な材料費などが発生しなかった.また,同じ理由により,年度を通して学会が中止となったりオンラインでの開催へと変更したため旅費が発生しなかった. 使用計画として,前年度行えなかった装置製作における材料費と,故障したオシロスコープの電流プローブの買い替えに充てる予定.
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