2022 Fiscal Year Research-status Report
Wedderburn定理に基づく伝達関数行列のランク削減を用いた共振峰の自在設計
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20K04360
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
松村 雄一 岐阜大学, 工学部, 教授 (20315922)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 共振制御 / モード解析 / 伝達関数合成法 / 周波数応答関数 / rank-one削減 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は,Wedderburnの定理を利用したrank-one削減に供する零空間の選定の冗長性を,共振応答レベルの低減という視点からなるべく排除し,一意に最適な零空間を選定するための基準作成について検討した。当該助成事業の補助で開発したモード寄与度指標によれば,設計対象の全系が共振する際の分系のモード寄与度が判明する。そこで,昨年度までに,構造変更の対象である分系のモード特性を制御することで,全系の共振を制御することまでを実現した。しかしながら,この方法では,構造変更の対象ではない側の分系の特性を考慮しないため,大きく共振応答を低減することが難しい場合も存在した。今年度は,構造変更の対象ではない側の分系にも着目し,rank-one削減に供する零空間の選定の冗長性の中から,様々な制約条件下で所望の共振応答低減が実現するような方法を検討した。その結果,全系の固有モードの構成を分系ごとに分析すると,分系間の内力(伝達力)で強制加振された際の分系の実稼働モードに等しいことを見いだした。そして,その実稼働モードの振幅低減こそが,全系の共振応答低減と密接に結ばれることを理解した。これらの知見と,分系間の伝達力ベクトルが,そのままrank-one削減に供する零空間のベクトルに等しいというこれまでの知見を結べば,分系の実稼働モードの振幅分布を適正化しつつ,小さくするような伝達力の分布,つまり零空間を選定すればよいとわかる。その結果,零空間の選択の冗長性が排除できることとなり,共振応答低減を実現する設計法の実現に大きく近づいた。具体的には,零空間の選択によって,一部分系のモード形を自在設計する方法や,分系間の力学的エネルギーのバランスを自在に変更するための方法,特定の分系でのエネルギー散逸を増大させる方法などを導いた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該研究に関する外部発表実績をまとめると,以下のとおりである。2022年度には,一般社団法人日本機械学会論文集の査読付き論文として1編「分系のモード寄与度分析に基づくモード群の分類」が掲載された。また,一般社団法人日本機械学会関西支部第23回秋季技術交流フォーラムでは,機械の音と振動研究懇話会により企画されたフォーラムにおいて,「結合自由度における自己コンプライアンス行列の Rank-One 摂動を利用した共振周波数の制御」に関する招待講演を行った。さらに,一般社団法人日本機械学会東海支部第72期講演会にて,「結合ばねによる2分系間の内力分布の変更を介した固有モードの整形」と「構造変更に伴う伝達力の分布の変化が少ない部位全体の応答を低減するための設計法」の2件を講演発表した。 これらの外部発表以外にも,研究開始時に設定した2022年度の目標:「振動工学の学術体系との関係から共振現象の出現を多角的に捉えられるようにする教材開発と,モード解析の既存技術を当該研究に取り入れる方法の整備」についても着手し,いくつかの重要な成果を得ている.まず,当該研究による共振制御が,多自由度振動系の解析法の基点であるレイリー商のエネルギー平衡を,周波数応答関数の整形を介して操作していることと同じであることを証明し,従来の学術体系との接点を明確化した.また,そのエネルギー平衡の操作を,周波数応答関数のモード法による表現と結ぶことで,モード解析の既存技術を当該研究に取り込む方法を整備した。これらの理論は,市販の数値解析用ソフトウェアであるMATLAB上に実装され,その成果は,2022年度中に一般社団法人次世代音振基盤技術研究会内の複数の研究会において講演発表された。 以上を総合的に判断すると,研究自体は概ね順調に推移しており,区分(1)に近い(2)と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
上述の【研究実績の概要】に記載のとおり,昨年(2022年)度は,研究開始時の予定では2021年に実施予定であった『rank-one削減に供する零空間の選定の冗長性を,共振レベルの低減という視点から排除し,なるべく一意に最適な零空間を選定するための基準作成』に取り組み,十分な進展を得た.この入れ替えは,2021年度に発案した別の研究成果を社会実装するため,早期の論文発表を目指して行った措置である。また,研究開始時の予定どおり,2022年に実施予定であった,『振動工学の学術体系との関係から共振現象の出現を多角的に捉えられるようにする教材開発と,モード解析の既存技術を当該研究に取り入れる方法の整備』にも着手し,【現在までの進捗状況】に記載の通り,大きな成果を得た。 これらの進展を受けて2023年度は,研究開始時の予定の通り,振動騒音のカスケーディング設計用ツールの開発を目指す。昨年度に実施した技術体系との関係性の理解に基づき,既存の解析ソフトウェアによる計算結果を流用しつつ,振動解析に必ずしも精通していない技術者でも,すぐに提案法を利用できるような共振制御用設計ツールの開発を目指す。具体的には,数値解析ソフトウェアMATLABと,市販の有限要素解析ソフトウェアの出力を組み合わせ,設計者CAEの観点から,設計者が机上で『共振現象の深い理解に基づきつつ,簡単に振動騒音性能を高性能化できる設計ツール』を開発する。共振現象の深い理解とは,共振が力学的エネルギーの平衡と関連するという,レイリー商の考えに立ち返ることを意味する。その上で,現代の振動解析の主流である有限要素解析ソフトウェアの基本的な出力である「固有振動数」,「固有モード」,「歪みエネルギー分布」などの情報を適切に操作しつつ組み合わせ,所望の共振特性を実現する設計ツールを開発する。
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Research Products
(4 results)