2020 Fiscal Year Research-status Report
Experimental Verification of Retrodirective Transmit Beamforming in Underwater Acoustic Communication
Project/Area Number |
20K04477
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Research Institution | Kitami Institute of Technology |
Principal Investigator |
吉澤 真吾 北見工業大学, 工学部, 准教授 (20447080)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 水中音響通信 / 到来方向推定 / ビームフォーミング |
Outline of Annual Research Achievements |
水中音響通信は自律型無人潜水機(AUV)や遠隔操作無人探査機(ROV)のデータ収集や遠隔制御などに利用される。水中音響通信は電磁波通信と同様にデジタル変調技術(OFDMやマルチユーザMIMOなど)を駆使した通信の高度化が進められている。無線通信信号処理では限られた送信エネルギーで効率的に遠距離通信を行う方法としてビームフォーミングがある。ビーフォーミングは素子アレイを用いて特定の方向に波のエネルギーを集中させる手法であり,水中音響通信では通信距離の延長や音波反射干渉の低減が可能となる。ただし、水中音響通信分野におけるビームフォーミングは受信ビームフォーミングに関する内容がほとんどであり、送信ビームフォーミングに関する研究はあまり行われていない。 本研究では水中音響通信において送信・受信フォーミングの両方を用いた音波の指向制御により、遠距離でも安定した通信を可能とするレトロディレクティブ方式の検討や実験検証を行う。レトロディレクティブ方式は互いの端末で信号の到来方向を推定し、その到来方向に向けて音波の指向制御を行う方式である。レトロディレクティブ方式は宇宙太陽発電所から地上局にマイクロ送電する方法としても知られている。 2020年度はレトロディレクティブ方式の基本検討に関して送信ビームフォーミングを用いたOFDM通信方式のシミュレーションおよび実験評価、ビームフォーミング法や遅延時間推定法による到来方向推定の検討、シミュレーションおよび実験評価を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
送信ビームフォーミングを用いたOFDM通信方式の性能検証では基本的な直線アレイで音波の指向性制を行ったときのシミュレーションや試験評価を行った。シミュレーションでは水中での音波反射をモデリングした上で送信機と受信機位置を変えながら通信性能を評価した。試験評価では遊泳用プールや港湾海域でシミュレーションとほぼ同じ条件となるように送信機や受信機を設置し、指向性制御の理想的な角度が既知とした条件でOFDM通信特性やCN比の測定を行った。例えば、遊泳用プールで指向制御あり・なしの復調時SN比を比較したときに5~10 dB程度の差があった。 通信端末間で相手端末からの音波到来方向を把握することを目的とした到来方向推定の検証を行った。到来方向推定は2つの受波素子の到達時間差を検出する遅延時間推定法と多数の受波素子を用いて信号間の位相差を調整するビームフォーミング法に大別される。それぞれの方法について性能検証や手法改良を行った。遅延時間推定法では音波反射が多い環境でも安定した到来方向推定を可能とするインパルス応答GCC-PHAT(IR-GCC-PHAT)法を提案し、シミュレーションやプール試験により提案法の有効性を確認した。ビームフォーミング法では遅延和(Delay-and-Sum)法, Capon法, MUSIC法, Frost法などの基本的なアルゴリズムを用いてシミュレーションによる性能比較を行った。水中音響通信では送信信号の中心周波数と帯域幅がほぼ1:1となる広帯域信号であるため、時間領域で位相・振幅調整を行うFrost法が良好な特性を示すことがわかった。
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Strategy for Future Research Activity |
2020年度の研究では送信ビームフォーミングと受信ビームフォーミングのそれぞれについて方式検討やシミュレーション・試験評価を行った。2021年度は送信・受信ビームフォーミングを組み合わせたレトロディレクティブ方式のシミュレーションや試験評価を行う予定である。 レトロディレクティブ方式では相手端末が発した音波信号から到来方向推定を行い、自分の端末で音波を発するときの指向制御の角度を決定する。到来方向推定ではビームフォーミング法と遅延時間推定法の2つがあり、どちらの方法を使うべきかを含めて検証する予定である。現時点では相手端末の音波が自端末に直接到達する見通し内条件では遅延時間推定法、相手端末の音波が海面、海底、周囲壁の反射を経由して反射した音波のみが自端末に届く場合はビームフォーミング法を用いるのが良いと想定している。 レトロディレクティブ方式の通信実験を行うには信号処理装置の改良も必要であり、2021年度に装置改良を行う。現行の受信装置と送信装置はそれぞれ別のコンピュータで操作する必要があり、受信装置で到来方向推定を行った後に続けて送信装置で指向制御を行う一連の動作をスムーズに行うことができない。送信装置と受信装置を1台のコンピュータで制御し、上記の動作が短時間で実行できるように改良する予定である。
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Causes of Carryover |
当初計画では多チャネル入出力対応の信号処理装置を複数台導入する予定であったが、交付決定額では予算が不足していることが判明し、信号処理装置の購入を見合わせて現行装置で対応することにした。より多くの試験データを取るため、海域試験やプール試験を複数回実施し、その試験治具の購入費やフィールド試験の出張旅費に充てる予定である。
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