2020 Fiscal Year Research-status Report
測長原子間力顕微鏡を介した格子面間隔の透過電子顕微鏡によるSIトレーサブルな測長
Project/Area Number |
20K04511
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
小林 慶太 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 主任研究員 (40556908)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
木津 良祐 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 研究員 (40760294)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ナノメトロロジー / 測長 / 不確かさ / 透過電子顕微鏡 / 原子間力顕微鏡 / シリコン |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、測長原子間力顕微鏡(M-AFM)と透過電子顕微鏡(TEM)によりSiの格子面間隔距離に国際単位系(SI)にトレーサブルな値付けをし、これを倍率校正に用いて、TEMによるサブnmサイズの構造を対象とするSIトレーサブルな測長技術の確立を目指す。 令和2年度は、TEMによる測長に現れる不確かさの抑制法の探索を目的として、TEMの結像機構に起因する測長値の不確かさとこれを与える主要因の実験的な解明に着手した。具体的には、Si薄膜試料の格子像を様々な撮像条件で取得し、{220}面間隔距離の変化から撮像条件ごとの測長値の不確かさを評価した。この結果、倍率の経時変化が測長値に不確かさを与える最大の要因であることを明らかとした。この経時変化は測長ごとに倍率校正を行うことで抑制でき、{220}面間隔距離に対して測長値の相対拡張不確かさを3.2%に抑えられることを明らかとした。加えて試料の格子面間隔距離の変動の研究と中間レンズの磁気履歴ならびに投影レンズの収差の抑制がさらなるTEMによる測長値の不確かさを抑制するための課題となることを示した。この成果は令和2年度中に1件の国内学会で口頭発表され、また1報の原著論文にまとめられて投稿された(現在査読中)。 これに加えて、M-AFMによりSIトレーサブルに値付けられた標準物質をTEMに導入する方法を確立すべく、研究分担者と協力して、間に加工を挟むことなくM-AFMとTEMで共通して測長しうる標準物質の創成にもあたった。今年度は予備実験として、薄膜加工した周期的なピッチ構造をもつ標準物質のM-AFM像とTEM像を比較し、薄膜加工過程であらわれる問題点の洗い出しを行った。その結果薄膜加工に用いられる樹脂により標準物質のピッチがAFM測定に支障が出る程破損されることを明らかとした。これを踏まえて、薄膜加工に頼らない標準物質の設計に着手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和2年度は、TEMを用いたサブnmオーダーの測長技術開発のための基本的な知見となるTEMの結像機構に起因する測長値の不確かさとこれを与える主要因の実験的な解明と、間に加工を挟むことなくM-AFMとTEMで共通して測長しうる標準物質の試作を目標として研究に当たった。 前者においては「研究実績の概要」に示した様に目標を達成できた。しかし後者においては、当初ピッチパターンを持つSi単結晶基板を機械研磨により薄膜加工することでM-AFMとTEMに共通して利用できる標準物質とすることを考えていたものの、予備実験から機械研磨により基板のピッチパターンがAFM測定に支障が出る程破損されることが明らかとなり、この方法が標準物質調整に際して不適切であることが分かった。そこでこれに代わる機械研磨を利用しない標準物質をデザインすることに注力した。このため令和2年度までに予定していた標準物質の試作を達成することができなかった。したがって現在までの研究進捗状況を「やや遅れている」と自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度は、試料加工に際してあらわれるSiの格子面間隔距離の変化の実験的な解明を行う。具体的には、TEMにより様々な試料加工条件で調製したSiの格子像を取得し、この像からSi{220}面間隔距離の変化を試料厚さならびに化学組成と関連付けて比較して、薄膜加工がSiの格子面間隔距離に与える影響とその機構を明らかとする。またこの結果を踏まえて、Siの格子面間隔距離をTEMの倍率校正の標準物質として利用するために最適な薄膜加工法の探索を行い、薄膜加工に起因してあらわれる測長値の不確かさを実験的に求める。 これと並行して、M-AFMとTEMで共通して測長しうる標準物質の創成を進める。現状で考えている標準物質のデザインは、Si単結晶からなり、電子線リソグラフィーにより加工して形成されるM-AFMとTEMで共通して測長し得るライン-スペース構造を持つものである。令和3年度中に電子線リソグラフィーならびにステルスダイシングを利用してこれを試作する。令和3年度以降、この標準物質のピッチ間隔にM-AFMでSIトレーサブルな値づけを行い、TEMによる格子面間隔距離のSIトレーサブルな値付けとこれを倍率校正のスケールとすることで研究目的であるTEMによるサブnmサイズの構造を対象とするSIトレーサブルな測長技術の確立を目指す。
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Causes of Carryover |
令和2年度にM-AFMとTEMで共通して測長しうる標準物質の試作を予定しており、物品費としてSi基板の加工費用を計上していた。しかしながら令和2年度中に標準物質の試作まで研究を進捗できなかったことから、これに充てる予定の物品費が未使用となった。 この予算は、令和3年度に改めて試作するM-AFMとTEMで共通して測長しうる標準物質を調製するためのSi基板の加工費用に充てる予定である。
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Remarks |
令和2年度に国際誌に原著論文を1報投稿。現在Reviseの査読中。
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Research Products
(1 results)