2020 Fiscal Year Research-status Report
Control of Phase Transition Temperature on Environmental Friendly Lead-free Piezoelectric Ceramics based on Bismuth Sodium Titanate
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20K04564
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
永田 肇 東京理科大学, 理工学部電気電子情報工学科, 教授 (70339117)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 非鉛強誘電体セラミックス / 脱分極温度 / 菱面晶 / 結晶構造解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
標題のチタン酸ビスマスナトリウム [(Bi1/2Na1/2)TiO3, BNT]系セラミックスは、比較的良好な圧電特性を示すことから非鉛圧電材料の候補材料として注目されている。しかしながら、圧電性が消失する温度(脱分極温度Td)が100~200℃程度とPZT系材料に比べて低く、応用上の大きな足かせとなっている。近年我々は、BNT系セラミックスを焼成後に1000℃程度から急冷(クエンチ)して作製することにより、優れた圧電性(電気機械結合係数k)を損なうことなく従来のTdより50~80℃程度上昇させられることを実験的に見出した。一方、現段階でそのメカニズム解明への取り組みが不十分な状況であったことから、本研究では、クエン処理有無による結晶構造の違いなどを解析するころにより、そのメカニズムについて検討を行った。 X線回折測定結果から、BNTセラミックス試料は菱面晶構造(R3c)を示し、クエンチ処理を施すことにより菱面晶歪みが増加することが分かった。菱面晶構造歪みの増大、すなわち菱面晶の安定化がTdの上昇に寄与したものと考えられる。菱面晶歪みの増大についてさらに詳しく調べるためにPring-8において放射光X線回折実験を行い、その解析を行った。クエンチBNT試料のリートベルト解析から、Biイオンが<111>に変位している様子が観察された。すなわち、Biイオンがペロブスカイ構造における本来のAサイトのセンター位置から<111>方向に変位(オフセンター化)することにより菱面晶歪を増大させたものと推察される。すなわち、高温でのBiイオンのオフセンターがクエンチ処理によって凍結したかのような格好であると推察できる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ここでは、精密結晶構造解析から得らえた結果について詳述したい。 リートベルト解析により得られたデータセットから、2体相関分布関数法(Atomic Pair-Distribution Function: PDF法)を用いて局所構造解析を行った。局所構造において、急冷の効果はペロブスカイト構造のユニットセル長にはほとんど見られなかったのに対し、Bi/NaとTiのカチオン間<111>の相関に顕著に現れていることがわかった。すなわち局所構造解析においても自発分極に最もeffectiveなBNTのA-site(Bi/Na)周辺の挙動に変化が見られており、Biイオンの<111>オフセンターを裏付けるものと考えられる。また、BNTでは一般に、A-siteの原子変位パラメータ(温度因子パラメータ)はB-siteやO-siteの原子変位パラメータと比べて比較的大きいことが知られており、A-site原子(Bi, Na)が平均構造の格子点から比較的大きくディスオーダーしているものと考えられる。一方、クエンチ処理したBNT系材料のA-siteの温度因子は、通常焼成BNTに比べて抑えられていたことから、ディスオーダー性が抑制(オーダー性が促進)されたものと推察される。すなわち、クエンチ処理した試料では、Biイオンは111方向に大きく変位した位置でオーダーしている状況が想像される。なお、電気的諸特性の温度依存性測定からも、温度に対する散漫性挙動の違いから同様の傾向(クエンチ処理するとオーダー性が促進する傾向)が確認されている。すなわち、クエンチ処理によるBNT系材料のTd高温化にはロングレンジのオーダー性促進が関連しているものと考えらえる。
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Strategy for Future Research Activity |
上述の通り、BNT系セラミックスにおけるクエンチ処理に対しては、ロングレンジのオーダー性促進が関連しているものと考えらえる。一方で、鉛系のB-siteリラクサー化合物(単結晶)のこれまでの研究などでは、一般に徐冷をゆっくりした方が、オーダー性が増すと考えられることから、本研究の結果は一見矛盾している。BNT系におけるこのような矛盾した傾向は、ある意味新規な振る舞いと言え、興味深い。この背景として、Biのオフセンター、クエンチによるBiイオンの111方向への変位拡大とオーダー性の増加、菱面晶歪みの増加とTd上昇といったメカニズムが密接かつ複雑に関連していると考えられる。すなわち、Biイオンの挙動が1つのキーポイントになっているように考えられる。すなわち、BNTは孤立電子対を持つ重いBiイオンがペロブスカイト構造のA-siteで複合化(Bi/Na)された材料であり、これが、クエンチによる新規な材料物性制御の根底にあるものと推察される。つまり、菱面晶構造に限ることなくBi系Aサイト複合ペロブスカイト全般において、クエンチによって材料物性制御がなされるものと期待されるのである。言い換えると、一般に不均質性を促進すると考えられる「急冷」という非平衡プロセスを用いて、ビスマス系Aサイト複合ペロブスカイト型強誘電体の新規な材料物性制御が行える可能性が示唆された。そこで、今後は正方晶構造を有する(Bi1/2K1/2)TiO3 (BKT)セラミックスやBNT-BKT固溶体系でも同様な傾向が見られるかについて研究を進める。また、オーダー性の状況とTdの傾向について詳細に検討進めることで、上述したBNT系材料の新規な振る舞いの原因について考察することができるものと考えている。
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Causes of Carryover |
物品費用の端数として適当な額の支出用途が見当たらなかった為、残額として生じた。次年度は、研究遂行のための物品費として活用予定。
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