2020 Fiscal Year Research-status Report
有機半導体の溶融転写成膜における融液流動過程の解析
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20K04576
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
市川 結 信州大学, 学術研究院繊維学系, 教授 (80324242)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 有機薄膜トランジスタ / 有機半導体 / 薄膜作製法 / 溶融 / 転写 |
Outline of Annual Research Achievements |
メニスカス形状の観察:基板と転写フィルムの間で有機半導体融液が作るメニスカスの形状を明らかにするために、溶融転写膜の端部のAFM測定を行った。その結果、基板と転写フィルムの表面自由エネルギーを反映し、基板との接触は小さく、転写フィルムとの接触角は大きいことが明らかになった。これらの結果から、融液状態のメニスカスの形状を推定した。さらに、転写膜には、基板との高い親和性によって、単分子層厚程度しかない非常に薄い薄膜が、転写膜の端部に形成されていることを見出した。 メニスカス力の測定:溶融転写で成膜した有機半導体薄膜の表面には「へこみ」がある。転写フィルムは薄いポリイミドフィルムであるため,メニスカス力によって「たわみ」,結果として転写膜の表面が「へこむ」ことになったと考えられる。今回、4つの材料において、「へこみ」が現れることを明らかにした。また、「へこみ」が均一なメニスカス力に起因することを、ポリイミドフィルムの変形に関する材料力学的解析を用いて明らかにした。しかし、材料によっては同様の解析が行えないことも明らかになり、その原因が転写温度と材料の融点の差が関係している可能性を見出した。 有機半導体の特性解析:溶融転写に用いている有機半導体NTCDI-C13の特性解析とトランジスタ特性向上:トランジスタのコンタクト電極にキャリア注入層を設けることと、絶縁層にポリマーを用いることで、半導体本来の特性を明らかにし、トランジスタ特性を向上できることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
メニスカス形状の観察、メニスカス力の測定、これら2つの研究項目では、予定通りの進捗を得ている。また、溶融転写に用いている有機半導体NTCDI-C13の特性解析とトランジスタ特性向上に関する論文を出版した。
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Strategy for Future Research Activity |
1. メニスカス形状の観察(2021年度):転写膜端部のAFM測定、そして、各種表面処理を施した基板や転写フィルム上で溶融させ、凝固させた有機半導体の端部の形状をAFMで測定することで、有機半導体融液が、基板と転写フィルムの間で作るメニスカスの形状を明らかにする。 2. メニスカス力の測定(2021年度):転写条件が与える影響を精査し、材料によらずメニスカス力が融液流動を引き起こしていることを明らかにする。 3. 有機半導体融液の表面張力の定量(2021~2022年度):メニスカス力はメニスカスの形状だけでなく,架橋液体の表面張力と関係づけられる。上記1,2の研究によって,有機半導体融液の表面張力を定量できる。加熱溶融可能ないくつかの有機半導体について,融液の表面張力を求め,データを蓄積する。 4. 分子配向測定(2021~2022年度):これまでに,転写成膜時の流動方向とリンクした面内配向が現れることを見出している。種々の条件で溶融転写を行い,転写膜の微小角入射広角X線散乱(GI-WAXS)測定を行い,転写成膜条件と面内配向の関係を明らかにする。用いている有機半導体は一次元性が高い分子構造であるため,流動による配向が起こっている可能性が高いと考えている。 5. 膜のひずみの評価(2021~2022年度):転写膜には,メニスカス力に起因するひずみ,応力が残留する。また,加熱と冷却を行い成膜するため熱膨張率の違いに起因するひずみ,応力も残留する。メニスカス力は膜厚方向,熱サイクルは膜面内方向のひずみと応力の原因となる。膜厚方向は圧縮ひずみ,膜面内方向はひっぱりひずみと予想されるため,2次元GI-WAXS測定による面外および面内のひずみ評価を行う。ひずみは分子間距離に影響するためひずみとキャリア輸送特性の関係を解析する。
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Causes of Carryover |
コロナ禍のため、出張を予定していた2つの学会がリモート開催となったため、旅費がかからなかったことから次年度使用とした。研究の円滑な遂行のための物品費として使用する計画である。
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