2021 Fiscal Year Research-status Report
機械学習法を活用して洪水被害の最小化を図るダム操作支援技術の開発
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20K04698
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Research Institution | Muroran Institute of Technology |
Principal Investigator |
中津川 誠 室蘭工業大学, 大学院工学研究科, 教授 (10344425)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小林 洋介 室蘭工業大学, 大学院工学研究科, 助教 (10735103)
一言 正之 日本工営株式会社中央研究所, 先端研究開発センター, 研究員 (40463559)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | ダム流入量予測 / ダム貯水位予測 / 異常洪水時防災操作 / 機械学習法 / スパースモデリング / Elastic Net / 気候変動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,未経験事例にも適用可能な機械学習法によるダム貯水位の予測手法の開発を目的とする.さらに,予測をもとに,異常洪水時にも下流の被害を最小化できるダム操作の判断支援手法を提案することを目指す. 3か年の研究の2年目となる令和3年度は,研究目的にある「ダム貯水位予測手法」とそれに基づく「下流被害の最小化を図るダム操作判断支援」の検討を進めた.洪水調節といったダム操作の判断は貯水位を判断材料に行われるため,流入量だけでなく,貯水位,放流量の予測が必要である.本研究では,少ない情報からデータ間の関係性を特定することが可能なスパースモデリング手法の一つであるElastic Netを用い,過去に異常洪水時防災操作事例のあるダムを対象に流入量を予測し,操作規則に基づく貯水位及び放流量の予測をおこなった.結果として,事前放流の判断や放流の下流域への影響を認識する上で,実際のダム管理や治水安全度向上に活用できる手法が提案できた. もう一つに特定のダムのみならず,一般性のある流入量予測手法の提案という課題に前年度に引き続き取り組んだ.まずは多くの観測データがあるいくつかの多目的ダムを対象に,汎化性能の高いElastic Netに基づく流入量予測モデルについて説明変数の分析と統合モデル(一般化)の提案をおこなった.これを複数の多目的ダムのほか利水専用ダムにも適用して有効性を確認した. さらに,気候変動に伴う洪水リスクの増大を念頭に,積雪寒冷地の多目的ダムの洪水調節機能の強化を目指す検討をおこなった.具体的には,気候変動に係る大量アンサンブルデータ(d4PDF)からダム流入量,貯水位,放流量を通年で推定し,異常洪水時防災操作の生起頻度を推定した.結果として,将来の降雨や融雪時期の変化による治水上のリスクを定量化し,事前放流やダム群の連携といった将来のダム管理のあり方に手がかりを与えた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定では,1年目で(1)既往洪水事例およびダムの情報収集・整理,1年目から2年目にかけて,(2)予測に必要な説明変数の検討,および(3)機械学習法による予測手法検討を予定していたが,いずれの事項についても所定の作業を達成した.とくに(3)の機械学習法の選定については,決定木(Random Forest法),深層学習(深層Neural Network法)およびElastic Net(EN)法の比較検証をおこなったうえで,未経験事例に対するEN法の有効性を過年度の先行研究で示してきた.2年目では流入量予測に加え,実際のダム操作の判断材料となる貯水位,放流量について十分な精度で予測が可能であることを示した. 一方,特定のダム(とくに国直轄の多目的ダム)のみならず,地方自治体管理の中小規模のダムや利水専用ダムにも適用できる一般性のある流入量予測手法の提案を目指し,Elastic Netで得られた回帰的手法の有効性が示された.近年の豪雨災害の頻発を背景に,利水ダム等からの事前放流の推進も推奨されるなか,全国各地の不特定多数のダムをフルに活用した被害の軽減にこの知見が活用できれば,社会的に重要な喫緊の課題に応えることにもつながることになり,研究成果については当初予定以上の付加価値を与えるような状況にあるといえる. さらに,積雪寒冷地のダムでは,気候変動に伴う降雨や融雪がもたらす洪水リスクの増大にも対応できるダム操作が求められており,事前放流やダム群の連携といった対策に関心が高まっている.そこで,今年度は気候変動が積雪寒冷地のダムにもたらす洪水リスクの推定をおこなった.その結果,本研究で提案検証してきた流入量予測手法が,そのようなリスク回避に有効であることを認識した.
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Strategy for Future Research Activity |
内容としては当初計画通り進める.最終年度となる今年度は,1)これまで提示してきた流入量予測手法に一般性があるかどうかを確認するために検討事例を増やす,2)不確実性を有する降雨予測情報を導入した流入量予測の適用を検討する,3)降雨に加えて融雪も勘案できる流入量予測の適用を検討する.以上によって,積雪寒冷地を含めた任意のダムに適用でき,また,降雨予測の不確実性という現実と向き合った流入量予測手法の提案を目指し,現実のダム管理への実装に道筋をつける.
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Causes of Carryover |
当初計上していた旅費,謝金等が新型コロナ感染症の影響により,出張がオンラインとなり,直接指示を与えてデータ整理等の作業を遂行することが困難となったことが予算執行が困難となった主たる原因である.ただし,その分はオンライン環境の整備や作業の効率化,検討数の増加などによって補完できたため,目標達成に影響を及ぼすことはなく,むしろ当初予定以上の進捗があった. 次年度は前年度効率化した分を検討事例増に振り向けることを考え,引き続き計算能力向上に充当していきたい.合わせて新型コロナ感染症の影響で海外渡航が制限されることを考え,旅費を減額するとともに,その分をオンライン環境の整備を図るための機器購入に充当していきたい.上記の理由と目的により,R3年度繰越分389,064円(うち代表者209,064円,分担者2名分180,000円)とR4年度当初予定分900,000円(うち代表者500,000円,分担者2名分400,000円)の計1,289,064円を,物品費689,064円,旅費300,000円,謝金等100,000円,論文投稿料200,000円として使用する計画である.
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