2020 Fiscal Year Research-status Report
Elucidation of generation and development mechanism of wind-wave in polar region and formulation of its bulk equation
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20K04699
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
小笠原 敏記 岩手大学, 理工学部, 教授 (60374865)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 風波 / 気液温度勾配 / 極域 |
Outline of Annual Research Achievements |
温暖化が進行し海水温が上昇すれば,北極では海氷の融解が加速され,無氷水面の海域が増加するだけでなく,海水温度の上昇を引き起こす.その結果,大気と海洋の境界層では鉛直温度勾配の変化が生じ,同風速条件においても大気が不安定な場合,波高が10から20パーセント大きくなる.これまでに扱われてきた不安定成層は,海水の温度よりも大気の温度が高い状態がほとんどであるため,極域のような海水よりも大気の温度が低い状態となる条件下での波浪特性は未解明のままである. そこで本研究では,気液温度勾配下の風浪場を設定可能な風洞水槽を用いて得られた実験データを基に,気液温度勾配が風波の発達にどのような影響を及ぼすのかについて検討し,発達機構の解明を試みている. その結果,海水よりも大気の温度が低くなるほど,波高が大きくなる傾向を示し,風速が弱い条件ほど顕著になり,中立成層での有義波高よりも2割程増大することを明らかにした.さらに,波高が大きくなる要因として,水面温度の低下に伴う水動粘性係数の増大によって,気液境界層での摩擦力が増大するためと推察し,摩擦速度と有義波高の関係よりその妥当性を実証している. 本研究の特色としては,極域の気象・海象場を水理実験より再現し,気液温度勾配下における風波の発達機構の解明につながる貴重なデータを取得して,気液温度勾配が大きいほど,波高が大きくなることを実証している点に新しい知見を得た.さらに,水温と水動粘性係数の関係に着眼し,摩擦速度と有義波高の関係より,弱風速下での風波の発達が摩擦力によることを明確にしている点は,極域での風波の発達機構解明の進展につながる結果と言える.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルス感染症の流行に伴い,本研究の進捗にも多少の影響が生じた.特に,PIV装置のひとつであるレーザー機器の点検・修繕を英国で行わなければならず,世界的な感染に伴い英国においても外出禁止などによりメンテナンスに対応できない状況がしばらく続いたことにより,当初の予定よりも実験の開始が遅くなってしました.しかしながら,その後は順当に実験を実施することができ,予定していた波浪や気温・水温データを計測することができた. そして,安定,不安定および中立成層のような温度成層の状態を設定し,各成層状態における鉛直温度勾配を明らかにするため,静水面を基準として気体側と液体側に複数の温度プローブを鉛直方向に配置して気温と水温を計測して,鉛直温度勾配の場が正しく設定されていることを確認することができたことから,当初の研究計画はおおむね順調に進展していると言える.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は,極域のような温度成層の場を設定することができる風洞水槽を用いることにより,風波の発生・発達機構の解明を行い,数値水槽により提案するバルク式の妥当性を検証するために,今後の研究を次のように進めていく. 風波の発生・発達と風速との関係を明らかにするため,正確な風速データを取得する.そこで,本科研費で購入したフォグジェネレーターによるPIV(Particle Image Velocimetry)計測を用いて,水面近傍を面的に計測する.これより,モニン・オブコフの相似則 に従い風速の鉛直分布を求め,そこから得られる摩擦速度と代表風速との関係より,温度成層を考慮した海面抵抗係数を求める.さらに,風波の時間的発達過程を明らかにするため,水面変位の情報を取得する.そこで,PIV計測範囲と同位置で同期させた容量式波高計を用いて計測し,風波発生・発達機構の解明に重要な有義波高,発生確率分布および周波数スペクトルを求める. そして,本研究によって極域における風波の発生・発達機構を解明し,温度成層の条件に適応したバルク式の提案を図る.また,同風速条件で不安定成層の場合,波高が10から20パーセント増大することが報告されていることから,極域での海水面の拡大および鉛直温度勾配の変化は,これまでに経験のないような暴波浪が発生することが考えられるため,気液温度勾配下における気液境界層の速度場と風波の波浪との関係を明確にすることによって,気候変動に伴う極域での波浪メカニズムの解明の進展を図る.
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症により,学会活動が中止となり,研究成果の発表および情報交換を行うための旅費を使用することができなかった.同様に,実験補助として学生に謝金を支払う予定であったが,コロナ禍の中,思うように学生に参加してもらうことができなかった.このような理由により,次年度使用額が生じた.
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