2020 Fiscal Year Research-status Report
湖沼の内部負荷に着目した,堆積有機物の質的動態の解明
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20K04765
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Research Institution | Ibaraki Kasumigaura Environmental Science Center |
Principal Investigator |
長濱 祐美 茨城県霞ケ浦環境科学センター(湖沼環境研究室、大気・化学物質研究室), 湖沼環境研究室, 主任 (00618506)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 霞ヶ浦 / 牛久沼 / 北浦 / 植物プランクトン / 珪藻 / 炭素・窒素安定同位体比 / 脂肪酸組成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、異なる植物プランクトンの種類によって産生された有機物に着目し、湖底に沈降する有機物と堆積している有機物を別個にとらえて、底泥中における生産起源ごとの有機物動態を明らかにすることである。初年度となる2020年度は、研究計画1のうち、植物プランクトン群集と炭素・窒素安定同位体比ならびに脂肪酸組成の関係についての解明を試みた。 対象湖沼とする、牛久沼・霞ヶ浦・北浦において、月に一度湖水をサンプリングし、形態学的知見から植物プランクトン群集組成を明らかにするとともに、炭素・窒素安定同位体比ならびに脂肪酸組成を測定した。 形態学的知見から植物プランクトン群集組成を明らかにした結果、これまでは、牛久沼は通年珪藻が、霞ヶ浦は冬季に藍藻が、北浦は夏季と冬季に藍藻が優先する傾向が明らかとなっていた。この成果については、第23回日本水環境学会シンポジウムで発表した。しかしながら、2020年度は牛久沼・霞ヶ浦・北浦のいずれにおいても、ほとんどの月で珪藻が優先となっており、例年見られるような異なる植物プランクトン種類の優占が起こらなかった。今後も継続してサンプリングを行い、植物プランクトン群集の差が、対象湖沼で優占的に異なるケースを探っていく。また、ビオトープ等、植物プランクトン群集組成が確実に異なるような水を対照とすることも検討する。 また、脂肪酸組成の測定を行った結果、検水ごとの差がほとんど見られなかったのみならず、既往研究で対照としているような植物プランクトン種類ごとのマーカー脂肪酸を安定して検出することができなかった。この理由については現在調査中であり、分担研究者を追加し、前処理方法等を再検討することを予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究初年度となる2020年度は、研究計画1のうち、植物プランクトン群集と炭素・窒素安定同位体比ならびに脂肪酸組成の関係についての解明を試みた。サンプリングについては非常によく遂行された。また、形態学的知見からの植物プランクトン群集組成の解明ならびに、過去データとの比較もよく行われ、学会発表等の業績を残すことができた。一方で、本研究で最も重要な鍵となる脂肪酸組成の分析が停滞していることから、(3)やや遅れている と評価した。脂肪酸組成分析のための前処理や測定はスムーズに行うことができているものの、既往研究で対照としているような植物プランクトン種類ごとのマーカー脂肪酸を安定して検出することができていない。この理由については1.分析機器に用いているガスの純度、2.前処理方法、3.濃縮方法について、現在検証中である。 1. 分析機器に用いているガスの純度:分析にはガスクロマトグラフィーを用いているが、コンプレッサーで送付している実験室内の圧縮空気がベースラインに影響してしまい、ベースラインが安定しないために、小さなピークがうまく検出できていないのではないか。 2.前処理方法:本研究では、脂肪酸組成と炭素・窒素安定同位体比とを両方測定したいと考えている。既往研究によれば、炭酸塩の混入によって炭素・窒素安定同位体比の正確な測定を行うことができないことが知られており、本研究では、懸濁態を捕集したろ紙を1M HClで濯ぐことで炭酸塩を除去している。しかしながら、同じろ紙を用いて脂肪酸組成を測定しようとした場合、HClによって不飽和脂肪酸が酸化されてしまっているのではないか。 3.濃縮方法:脂肪酸組成の測定には、30 mLの検水をろ過したろ紙を用いているが、ろ過量が少ないことから、濃縮を行っている。既往研究を参考に窒素ガスで濃縮しているが、濃縮時間が不飽和脂肪酸の酸化に影響しているのではないか。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、脂肪酸の安定分析について急ぎ注力するとともに、当初の研究計画のとおり沈降する有機物の起源解明についての研究を遂行する。脂肪酸の安定分析については、それぞれ以下の対応を行う。また、国内における同分野の分担研究者の追加についても検討する。 1. 分析機器に用いているガスの純度:ガスクロマトグラフィーのガスラインを変更し、圧縮空気をボンベから直接送るようにすることで、小さなピークの分析を可能とする。 2.前処理方法:サンプリング量を増やし、炭素・窒素安定同位体比と脂肪酸組成それぞれの測定用ろ紙を分け、異なる前処理方法を用いる。 3.濃縮方法:サンプリング量を増やすことで、濃縮濃度を減らし、濃縮に伴う不飽和脂肪酸の酸化を軽減させる。また、既往研究等の研究者にヒアリングを行い、確実な前処理手法の確立を行う。 沈降する有機物の起源解析について、セジメントトラップを作成し、河口域を中心にサンプリングを行う。また、採取した沈降物の炭素・窒素安定同位体比ならびに脂肪酸組成について安定的に測定できるよう、確認する。
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