2020 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
20K04800
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
輿石 直幸 早稲田大学, 理工学術院, 教授 (00257213)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 土蔵 / 伝統土壁 / 左官 / 材料 / 調合 |
Outline of Annual Research Achievements |
土蔵における左官技術を対象とし、令和2年度は下記の研究を行った。 1.既存文献の調査:国指定重要文化財や各自治体指定文化財の建物を修理工事する際に作成される「保存修理工事報告書」を対象に、土蔵の軸組などの主要部、壁体の下地、塗壁材料および塗付け工程について記載のある32件を調査した。保存修理工事報告書には、修理前の既存建物を調査した内容と、修理工事で採用された構法が併記されているが、本調査では、土蔵が盛んに造られていた江戸後期から大正期ごろまでの左官技術を読み解くために、修理前の当初技術に関する記述を抽出した。抽出した項目は、建物概要、軸組などの構造体、壁体の下地、塗壁材料および塗付け工程である。その他に、図面や写真からの情報も補填し、軸組、壁下地および塗り層構成を図面化した。 2.既存土蔵の実地調査ならびに壁体層構成および材料・調合の分析:今年度の既存土蔵の調査は実施を見送った。 3.要素試験体による左官技術の評価:上記1の文献調査より、多くの既存土蔵に共通する要素技術として、①砂ずり、②ヒガキおよび③水湿しが挙げられる。これらの要素技術について、下塗り層と上塗り層で構成される試験体を作製し、層間のせん断強度および破壊性状の観察から層間剥離の抑制効果を評価した。関東地域の土蔵に代表的に採用される荒木田土を原土に使用し、各層に用いる壁土の調合を要因とした20種類の合計60体の試験体を作製した。その結果、①高粘性の練り土を塗り重ねる場合は砂ずりの効果が顕著に認められた。一方で、砂質の練り土を塗り重ねる場合は砂ずりを効果は顕著でなかった。また、②ヒガキを施し、下塗り層表面の凹凸に上塗り層が入り込むことによって層間の一体性が高まる傾向を確認した。③水湿しは高粘性の練り土と砂質の練り土を塗り重ねた場合に効果が認められた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
1.既存文献の調査:保存修理工事報告書の調査において、各土蔵の軸組、壁下地および塗り層構成の図面化に多くの作業時間を要しており、現時点では手書きによるスケッチに留まった。今後これらを清書して、比較・分析が可能な図面を作成する必要がある。また、既存文献として土蔵における左官工事の指針・要領を示した「手引書」やビデオ画像として収録された資料があるが、抽出した情報は未整備の状態にある。 2.既存土蔵の実地調査ならびに壁体層構成および材料・調合の分析:2011~2018年にかけて実施した実測調査27件について、各土蔵の軸組、壁下地および塗り層構成を図面化し、上記1と同様に比較・分析を行う。うち10件は野帳記録の情報を精査する必要がある。 3.要素試験体による左官技術の評価:②ヒガキによる効果の評価で、試験体における凹凸の幅や深さに個体差があり、結果にばらつきが認められた。ヒガキを施す際に凹凸の形状や寸法を管理する方法を検討する必要がある。その他の評価が必要な左官技術として、下げ縄による壁体の剥落防止効果、層内に塗り込む縦縄・横縄に使用する縄の品質、径、設置間隔等に関するデータ整備を予定しており、縄に関する評価方法については引き続き検討が必要である。
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Strategy for Future Research Activity |
令和3年度は既存文献調査および実地調査をもとに、既存土蔵の軸組、壁下地および塗り層構成の図面化し、各土蔵における塗付け工程の比較・分析を行う。また、令和2年度の実験をもとに、引き続き要素試験体による評価を行い、練り土の調合に応じ、層間剥離防止に効果的な下地調整、砂ずり等の条件を整理する。加えて、下地に緊結した下げ縄や層内に塗り込む縦縄、横縄による塗付け層の剥落防止効果について評価を行う。 令和4年度は得られた結果を取りまとめ、成果の発表を行う。
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Causes of Carryover |
新型コロナウィルス感染拡大により、既存土蔵の実地調査が実施できず、出張旅費の支出がなかったため。令和3年度に、前年度分も含め、実地調査を行う。
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