2021 Fiscal Year Research-status Report
浮遊細菌数とエンドトキシン量に基づく室内のグラム陰性細菌曝露リスクの把握
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20K04822
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Research Institution | University of Occupational and Environmental Health, Japan |
Principal Investigator |
石松 維世 産業医科大学, 産業保健学部, 教授 (40289591)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | エンドトキシン濃度 / 浮遊細菌数濃度 / PM2.5 / 総粉じん |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、浮遊細菌数濃度とエンドトキシン(ET)濃度の経時的測定を行った。測定場所は、特定建築物である大学の会議室、実験室および屋外であり、2021年3月~12月に総粉じん中とPM2.5中の浮遊細菌数濃度とエンドトキシン濃度を測定した。またPM2.5捕集は、2020年度に性能を確認した衝突型サンプラー(SPM10/2.5サンプラー)とPM2.5用直進型サイクロンを併用した。捕集には、0.8 μm孔径ニトロセルロース混合エステルメンブランフィルターを用いた。毎月1回のサンプリング後、同一試料から浮遊細菌数濃度とET濃度を求めた。しかし、浮遊細菌の計数が遅れ計数結果にも疑義が生じたため、浮遊細菌数濃度の結果は見直し中であるが、ET濃度には問題はなかったためET濃度のみ解析した。 黄砂が飛来した3月を除いた総粉じん中、衝突型PM2.5中、サイクロンPM2.5中ET濃度の最高値は、それぞれ会議室0.085、0.073、0.048 EU/m3、実験室0.090、0.051、0.036 EU/m3、屋外0.46、0.17、0.19 EU/m3であった。3月のET濃度は、総粉じん中、PM2.5中ともに高く、特に屋外の総粉じん中は1.75 EU/m3と、4月~12月での最高値の3.8倍となった。これより、黄砂とともにグラム陰性細菌が飛来したと考えられた。室内のET濃度は、総粉じん中では屋外の約30~40%、PM2.5中では両サンプラー共に屋外の約40~50%であった。屋外と両室内には、総粉じん、PM2.5中ともに高い正の相関(r>0.7)が認められ、2018年度の通年データとは傾向が異なっていた。また総粉じんとPM2.5中には、室内外ともに高い正の相関(r= 0.75~0.95)があり、2018年度より相関係数は大きかった。以上より、年間で浮遊細菌叢に大きな変化があることが推察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2020年度に比較したPM2.5用の衝突型サンプラーと直進型サイクロンの捕集結果では、細菌数濃度については回帰式の傾きはほぼ1であり1対1の関係が見られたが、ET濃度では直進型サイクロンの方が低いという結果が得られた。2021年度は、屋外だけでなく室内の測定も加え、毎月のデータにより両者の比較を試みた。しかし、浮遊細菌数濃度の計数遅れから、データが一部揃っていない状況である。進捗が遅れている浮遊細菌の計数については、7月頃までに計数を終えて細菌数濃度を算出し、細菌数濃度とET濃度の結果を総合的に検討する予定である。これにより、2021年度の細菌数濃度とET濃度との解析ができるため、2022年末までには今年度の細菌数濃度とET濃度データとともに比較検討ができると考えている。 検討する粒子について、申請時の計画では総粉じん、SPM10およびPM2.5を考えていたが、2021年度のデータ取得の遅れと2018年度~2019年度に取得したSPM10データの解析より、SPM10中の細菌数とETの測定を行わないこととした。 また、2021年度は、申請時には計画していなかった大腸菌を培養し菌数とET濃度との関連性を調べる計画を立てたが、実施できなかった。申請時の計画自体が遅れていることもあり、この実験については研究計画を練り直して、本研究課題とは別に改めて実施を考えることとした。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は本研究課題の最終年度であるため、毎月実施している細菌数濃度とET濃度の測定は11月で終了し、データのまとめに入る予定である。 室内の測定場所のうち、これまで継続して測定していた実習室を2021年度から使用頻度の高い実験室に変更した。実験室は捕集時に在室者がいる機会が多い場所であり、同じ建物で同じく第1種機械換気が導入されている実習室よりも浮遊細菌数濃度とET濃度は高い傾向を示す結果が得られつつあり、ヒトの影響を加味したデータが採取できている。 当初予定していた、SPM10中の細菌数濃度とET濃度については、新型コロナウイルス感染症対応等による時間的な制約や、指導学生の登校制限などが生じたため実験計画を縮小せねばならず、測定を断念して総粉じん中とPM2.5中の浮遊細菌数濃度とET濃度の比較を実施している。 解析するデータの不足を補うため、2018年度~2019年度に測定した浮遊細菌数濃度とET濃度データとも比較しながら、2021年度~2022年度に得られた総粉じん中とPM2.5中の細菌数濃度とET濃度のデータを解析する。これにより、ET濃度が示す気中のグラム陰性細菌の動向や健康影響について考察していく予定である。 本研究の結果は、2023年度の日本産業衛生学会や日本建築学会等でポスターあるいは口頭発表を行い、浮遊粒子中ET濃度や浮遊細菌数濃度について健康影響の視点から論文発表を予定する。
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Causes of Carryover |
2020年度に、新型コロナウイルス感染症防止対策による在宅勤務や学生の入構制限などにより予定の実験ができなかったことから、すでに繰越金が生じていた。2021年度は、この繰越金を加えての使用であったことから、当初の計画外ではあったが、ET測定ユニットを購入し、測定の効率化を図ることができた。しかし、新型コロナウイルス感染症対応が継続し、学生の入構制限などから実験計画を縮小したため、試薬等の購入が予定より抑えられ、また、成果発表や情報収集を予定していた学会がリモート開催になり、旅費の使用がなかった。したがって、2021年度も約31万円の繰越金が生じた。 2022年度は、感染対策を行いながら、入構制限下でもできるだけ計画通りに定期測定を実施し、必要な試薬等の消耗品費に加え、データ解析に伴う学生アルバイトの人件費や、学会登録費等に使用する予定である。
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