2023 Fiscal Year Research-status Report
A study on the historical transition of the landscape in cases of migratable village in mountanious area
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20K04835
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Research Institution | 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構職業能力開発総合大学校(能力開発院、基盤整備センター) |
Principal Investigator |
樋口 貴彦 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構職業能力開発総合大学校(能力開発院、基盤整備センター), 能力開発院, 准教授 (50568631)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
羽田 真也 飯田市歴史研究所, 研究部, 研究員 (40757837)
福村 任生 飯田市歴史研究所, 研究部, 研究員 (40833918)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 移住圏 / 集落景観 / 歴史的変遷 / 家屋の更新 / 山里 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は「地方分散型」社会への移行に向けた各地の取り組みが進む中で、伝統的な集落の変質に着目し、主に近世に由来する集落固有の家並みと集落の空間分節の変遷に着目して、近世の村絵図や近代の地籍図、複数の年代の航空写真をGISデータと統合する分析と現地での悉皆調査から、近現代における山里集落の歴史的景観の変遷の特徴を明らかにすることを目的としてきた。さらに住民の家並みや家屋の更新に対する意識調査をふまえて集落景観の今後の展開を推察し、その方向性と課題を検討することも目的としてきた。しかし新型コロナ感染症の感染拡大により、集落内における悉皆調査や住民へのヒアリングの実施が困難となったため、2022年度は調査対象として取り上げてきた各集落の家屋配置の変遷の傾向の抽出を目的としたGIS分析のための集落図(ベースマップ)の作成を目標として掲げた。当初の研究計画において研究対象とした7集落のうち近世から近代の家並みを描いた絵図資料を確認できる長野県諏訪郡富士見町乙事集落と同県上伊那郡箕輪町長岡集落、同県下伊那郡高森町吉田集落について、優先的に1940年代以降の航空写真から集落の家屋の更新をトレースしたベースマップの作成を行なった。2023年度は、研究代表者が所属機関を変更したことによる研究環境の変化から、研究分担者への分担金の分配ができなくなり、共同研究者との連携作業を行うのが困難な状況になった。そのため研究規模を縮小し調査対象地域をこれまで外観調査を行なってきた長野県諏訪郡富士見町乙事集落と近接し、近世に描かれたとされる村絵図が残る立沢集落に絞ることを計画した。新型コロナ感染症の季節性感染症への移行をふまえて立沢集落に外観調査を認めてもらえるように交渉しているが、未だ調査の受け入れについては交渉中であり、近世の村絵図についても所在を確認中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
本研究計画において設定した研究プロセスは大きく3段階あり、Ⅰ.近世絵図及び公図、航空写真、地図資料による集落家屋の変遷に関するベースマップの作成。Ⅱ.集落における家屋等の悉皆調査(現存する建物の建築年代や改修年代に関するヒアリング含む)による現状の集落景観の把握。Ⅲ.ヒアリング又はアンケート調査による集落住民の家屋の更新に関する意識(方針)の把握による移住圏集落の家屋の更新の特徴の提示を予定していた。当初の研究計画では集落の世帯規模や立地の特徴から諏訪地方・伊那地方・飯田地方に分布する7集落を調査対象として、年度ごとに主に調査対象とする集落を選定する方針としていたが、新型コロナ感染症の感染拡大の状況から 2022年度までは実質的な調査を実施することができず、2022年度は、集落調査の可能性をうかがいつつ、集落規模が類似する乙事、長岡、吉田の3集落については、国土地理院発行の空中写真を入手し、年代ごとの家屋の更新状況(主に新築及び撤去、移転)を確認できる分析図を作成した。また乙事集落については、コロナ感染症の感染拡大期を避けて悉皆調査を実施して、近代における家屋の更新の形跡について外観調査や、家並みの撮影を行った他、集落の許可を得て、明治初期に作成された地引絵図を撮影し、近世から近代にかけて所在した集落の家並みを確認する基礎資料を作成した。2023年度は乙事集落における外観から伝統的構法による主屋や付属家調査の一部の成果をデザインシンポジウム(10月)にて報告した。一方で乙事集落と比較するために調査対象として研究計画に掲げていた立沢集落には、乙事集落と同様の外観調査と集落が保管する絵図に関する調査を依頼しているが、コロナ禍以降外部からの調査の受け入れに慎重な状態が続いており、研究計画で予定したⅢ.の移住圏集落の住民の意識調査については実施の目処がついていない。
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Strategy for Future Research Activity |
新型コロナ感染症の直接的な影響はいずれの調査対象地域においてもほぼ収束しているものの、外部から集落への訪問者に対する警戒心は、高まったままになっており、研究対象としている地域では集落の家屋に関する外観調査すら容易に実施できない状態が続いているため、当初計画していた7つの集落を対象とする調査は、実質的に困難である。そのため既に集落の家屋の外観調査を実施している乙事集落と集落規模及び所在地が近く、近世の村絵図を有する立沢集落に調査対象を限定して、各年代の空中写真から家屋の変遷をまとめたベースマップを作成するとともに、村絵図の分析と外観調査の実施による集落の更新課程の特徴をすることを目指している状況である。移住圏集落の住民の意識調査については全戸を対象とした全面的な調査を実施するのは既に時間的に困難であることから、本研究の次の段階に委ねることとし、ヒアリング調査が可能な事例を見出し、サンプルとして家屋の更新に関する住民の意見を採取する。既にベースマップを作成している他の地域の集落については、この2集落の家屋の更新の特徴を比較検討する際の補足的なデータとして扱うこととする。またこれまで座光寺集落に関する調査を担当してきた羽田真也氏、絵図資料の撮影やGISを用いた分析画像の作成について技術的な支援をいただいてきた福村任生氏には、研究代表者の所属機関の変更にともない、分担研究者として研究に参加していただくことができなくなったが、研究協力者として資料読解や分析図の作成に関して引き助言や協力を求める予定である。
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Causes of Carryover |
研究代表者の所属先の変更にともない、所属機関の規定によりこれまでのように研究分担者への配分ができなくなったこと、アルバイト学生を雇用することができなくなったことから、調査対象集落での調査活動や空中写真を用いた家屋の更新を分析する分析作業を実施する体制を整えることができなかったことが、次年度使用額が生じた主な要因となっている。また歴史的建造物に関する専門的知見を要する集落調査の性質が特殊であるため、調査業務を委託することができる業者の選定自体が困難であり、コロナ禍を経て集落側の調査受け入れに対する抵抗感が以前よりも強まっており、業者委託を伴う調査計画を立てることが困難であったことが補足的な要因である。今後の研究費の使用計画としては、研究対象とする集落側の調査受け入れ状況によるが、①現地調査に係る旅費②実測調査図面の製図や集落のベースマップへの調査結果の取りまとめ等、調査結果の取りまとめに関する作業の業者委託費③補足的な空中写真等の資料購入費④研究協力者の協力に基づく絵図資料の撮影に係る費用及び⑤研究成果の報告・発表に係る費用を計画している。
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