2020 Fiscal Year Research-status Report
自発的な地域コミュニティ形成の場としての「開く住まい」に関する研究
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20K04861
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Research Institution | Kyoto Women's University |
Principal Investigator |
是永 美樹 京都女子大学, 家政学部, 准教授 (30345384)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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Keywords | 開く住まい / 高齢者の居場所 / 京町家 / 開放領域 / 誘導的アプローチ / 地域コミュニティ |
Outline of Annual Research Achievements |
2020年度は、新型コロナウィルスの影響により、住まいを開いている活動について、訪問調査を行うことがほとんどできなかったが、2019年度に京都市内の高齢者の居場所について、ある程度のヒアリング調査を先行して行っていたため、その内容について現時点でのデータを整理し、「住宅を開放した高齢者の居場所づくりに関する研究」と題し、2020年度日本建築学会近畿支部研究発表会で発表した。その中で、①運営者の特徴、②運営上の工夫、③接道と開く部屋の位置からみた住宅を開放した高齢者の居場所づくりの特徴の3点に着目して分析を行った。なかでも、京町家の間口が狭く奥に長い特徴的な間取りや敷地形状は、接道側を開き、奥にプライベートな領域を確保しやすく、住まいを開くのに適しているという傾向を見出した。 2020年度は、ヒアリング調査の機会が制限されたため、建築の専門誌である「新建築住宅特集」に掲載されている「開くこと」を前提に設計された住宅166事例を対象に、図面や設計者の解説、写真のキャプションなどを読みこみ、開く住まい方の設計上の工夫や配慮点を把握した。家族構成、プログラム、開く領域、開く領域のレベルについて整理し、開く住まいの開放領域のパタンは20パタンに分類できた。さらに、開く住まいの接道数、開く領域へのアクセス、前面道路との境界要素、入りやすさを促す建築的要素について整理し、開く住まいの誘導的アプローチのパタンは23パタンに分類できた。 「開くこと」を前提に設計された住宅は、家族と訪問者が一つ屋根の下で交流するという現代的な住まい方の一端であり、周辺に対して開放性が高く、新たな地域コミュニティとしての場の可能性を示唆していることを把握した。この結果について「現代の住宅作品における開く住まい方に関する研究」と題し、2021年度日本建築学会近畿支部研究発表会で発表予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウィルスの影響で、住まいを開いた活動の多くが自粛したこと、訪問調査は緊急性のある場合を除いてはできるだけ控えざるを得ない状況になり、高齢者の居場所づくりに関して、新たな事例のヒアリング調査を行うことが難しかった。そのため、高齢者の居場所づくりについては、2020年度以前に先行して行っていた京都市内を対象としたヒアリング調査のデータを整理するにとどまった。 訪問調査が制限された状況を考慮し、建築家の設計した住宅作品を対象に紙面調査に切り替えて、調査・分析を行った。その結果、あらかじめ「開く」ことを想定して設計されているため、デザイン的な工夫が多数読み取ることができた。これらの住宅は、目的性の高いプログラムで開かれていることが多く、開く活動をするための専用の部屋が用意されているのが特徴的であり、これまでに調査した高齢者の居場所では、日常的に家族が使っている部屋をコミュニティの場として開いており、開く領域や開き方が異なることが把握できた。研究計画の段階では、建築家による住宅作品は調査対象とはしていなかったが、訪問調査では得られない積極的にデザインされた「開く住まい」のあり方を把握できたことは、「地域コミュニティ」の場としての多様性を示す知見となると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2021年度は、以下の3つの調査を行いたいと考えている。 一つは、新型コロナウィルスによる社会情勢が改善されたら、高齢者の居場所について、追加調査を行いたいと考えている。これまでに京都市内の訪問調査によって、ある程度の傾向が把握できているが、他の地域やこれまでには見られなかったプログラムで開いている事例などを調査したいと考えている。 次に、子どもの居場所や子育て支援の場となっている事例についても、平行して訪問調査を行いたいと考えている。子どもを対象として住まいを開いている事例は、これまでの調査から、大きく二つの傾向があることが把握されている。一つは、子育てをしている親を支援する場であり、もう一つは子ども自身の活動の居場所となる場である。これらは、「子ども」というキーワードは共通し、福祉的、教育的な視点は通底しているものの、プログラムの目的は異なるため、住まいの開き方も異なるのではないかと予測される。子どもを対象とした事例調査では、この点に注意して、対象年齢やプログラムに応じた開き方を整理したいと考えている。 3つ目は、新型コロナウィルスによる社会情勢が改善されなかった場合、2020年度に行った現代の住宅作品について、開く領域の上下足、訪問者の入口の位置、開口部のデザインなどについて補足調査を行い、2020年度の調査で把握できた「開く領域のパタン」や「誘導的アプローチ」との関係を整理したいと考えている。 一方で、2021年度も新型コロナウィルスの感染状況が改善されず、訪問調査を行うことが難しい状況が続く場合は、アンケート調査やZOOMでのインタビューなど、調査方法について再検討する。
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Causes of Carryover |
2020年度は、新型コロナウィルスの影響で訪問調査が予定通り行うことができなかったこと、また、研究協力者の方との打ち合わせもオンライン上で行ったため、交通費および、出張費の支出がなかった。 今年度は、新型コロナウィルスによる社会状況の変化を鑑みながら、訪問先とも相談した上で、できる限り訪問調査を実施したいと考えている。訪問対象としては、高齢者の居場所になっている事例と、子育て支援や子どもの居場所として開いている事例である。いずれも福祉的、教育的な性格のプログラムが多いが、子育て支援のプログラムのなかには教室など経営的な性格のものもあり、これらは福祉的なプログラムとは異なる住宅計画をしているのではないかと推測される。高齢者の居場所については、多くの事例が現在の住まいの状況を大きく変更することなく、住まいのなかに訪問者を受け入れていたが、経営的な性格の強い子育て支援の場の事例では、開放している領域やアクセス、セキュリティのあり方などに着目して事例調査を行いたいと計画している。
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