2020 Fiscal Year Research-status Report
江戸中期における近世社寺建築の構法発達と仏教寺院の隆盛に関する研究
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20K04885
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
小林 直弘 東京藝術大学, 大学院美術研究科, 講師 (60543808)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 近世社寺建築 / 綱吉政権 / 寛文八年令 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は家綱政権下(以下家綱期)、綱吉政権下(以下綱吉期)における寺院造営についての実態を把握することを今年度の研究の目標としていた。家綱期には寛文5年から出され、建築については寛文八年(以下寛文八年令)に出された御触書により大きな規制がかけられた。この点関係を境に建築の作られ方の違い、そして綱吉期の元禄を中心とした爆発的な造営の関係性に疑問があったことが研究の背景にある。 そこで今年度の成果として全国の国指定、都道府県指定の建造物を対象に寛文八年令前後における造営の実態を把握することを始めた。寛文八年令は梁間規制とも別名されるほど規模に対するものであったにもかかわらず、梁間規制以上の仏堂(以下大型仏堂)が多数つくられていることがわかる。代表的なものは江戸の護国寺や長野の善光寺である。これらのうち前者の護国寺は幕府直営光寺であったことが従前より指摘されているが、全体像を総体として俯瞰した先行研究はなかった。本件研究で、この寛文八年令前後の造営の実態を俯瞰してみると寛文八年から6年程度までは畿内を中心として造営がなされていため、それ以後は全国にまた宗派関係なく造営絵が展開されていたことが判明した。その中で、中山の法華経寺は日蓮宗の寺院であるが梁間規制を厳格に守った事例であるし、広島の國前寺もその一つといえる。しかし、既存の仏堂から新規に立てる仏堂が大型化した事例である三重の地蔵院では護持院隆光の関与がほのめかされている。護持院隆光の寺院の造営に関する関与は東大寺金堂(大仏殿)での関与や畿内の復興に先行研究ではいわれているが、その他の事例での関与は不明である。また護持院の関与を物語るかのように家綱期から綱吉期に転換した時期は大型仏堂が建設されておらず、隆光が護持院となると増加する傾向も見えた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
全国的な寛文期から元禄期(家綱期から綱吉期)に対する国重要文化財、都道府県指定文化財から造営の把握の件は、1000件以上ある具体事例から、必要な情報を収集した。その結果、寛文八年を境に造営の傾向の違いがあることが判明し、寛文八年を境に畿内と全国との違いを見ることができたことは大きな成果であるといえる。その結果からは大型仏堂は寛文八年令を契機に一端は減少するが、ある時期を境に増加傾向に展化する傾向を把握することは完了し基礎的なデータの蓄積は完遂したものと考えている。 しかし、2020年度の新型コロナウイルス感染症の関係で、当初予定していた川口市安行にある西福寺本堂の実測調査については、上記の感染症の影響で所有者である住職と相談したところ今年度の実施を延期したことが大きな遅延と考えている。当初予定していた実測調査から得られる知見から実測の要領を把握することが初年度の大きな目的でもあった。どこにその特徴があるのかなど、実測を基にその知見が得られらなかったことが大きな遅延の理由である。 ただし、甲州市にある立正寺(日蓮宗)祖師堂の実測調査の手筈までは今年度完了することができたことは大きな成果であるといえる。立正寺祖師堂は寛文八年に作られた堂宇で現在市の指定文化財に指定されているが、本格的な調査はいまだ行われていない。当初予定していた西福寺は無住であった時期が長く文書関係の資料が皆無であったことが大きな問題であったことは確かである。しかし、立正寺は身延山へ上る道中の寺院で資料等も豊富にある。また資料の一次調査は完了している。今後は甲州市役所の協力の元、本格的な調査を行える段取りができている。
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Strategy for Future Research Activity |
大きく分けて3個のタームに分けて遂行をする予定である。①家綱期、綱吉期における造営の傾向と大型仏堂の建設の経緯の整理、②川口市西福寺本堂の実測調査から見る建築的価値の調査、③甲州市立正寺観音堂の実測調査をと共に資料調査から見る建立の経緯である。①は約70件の大型仏堂が寛文八年令以後に建設されている。それらの建設の経緯を整理することで、寛文八年令の実態とその緩和に関与した人物を想定しすることができると推定する。具体的には修理工事報告書を基にその中に掲載されている古文書を読み解くことが先決で、次いで上述の方法でかなわない場合は個別に聞き取り調査を行う予定である。②については6月から調査を実施する予定である。調査で必要な個所の選定をしつつ、建物からわかる技法的な特徴を取りまとめていく。③については②で行った調査を基に建物については合理禎な調査を実施し、近世建築としての技法を把握に努める。また近世門文書が多数残ることから、文書整理を甲州市と行うとともに建設に関わる文書を探し、その経緯を探ることとする。
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Causes of Carryover |
本年度予定していた川口市安行にある西福寺本堂の実測調査に関わる費用が次年度使用額として生じた。その理由は新型コロナウイルス感染症の蔓延による被害が大きな要因であった。2020年度は同寺の実測調査を行い、その建築的特徴を観察することで、近世中期の構造的展開の実験的考察を行うものであった。その為実測のための段取りを組むため、所有者である住職と日程や期間などを決定し、2021年1月より開始し、1か月程度の調査機関をとる予定であった。しかし、残念ながら、埼玉県において緊急事態宣言が出されてしまい、実施の是非を検討した。その結果、西福寺では正月行事、旧正月などの仏事をすべて無観客で行うことを決定した。その為いくら調査のためであったとしても檀家衆が近づかない本堂に調査者が近づき作業をすることが不謹慎であることを確認して中止とした。しかし、3月には緊急事態宣言が解除されたため実施は可能であったが急な調査は安全性やその信ぴょう性に欠けると研究代表者は判断して次年度へ作業を見送った。2021年度は上半期に実測調査を行い、実験的な実測調査を行う予定である。
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