2023 Fiscal Year Research-status Report
境島村における幕末~近代の蚕種製造民家群の保存継承に関する基礎的研究
Project/Area Number |
20K04886
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
大野 敏 横浜国立大学, 大学院都市イノベーション研究院, 教授 (20311665)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 境島村 / 蚕種製造 / 民家 / 養蚕 / 世界遺産 / 重要伝統的建造物群保存地区 / 田島弥平旧宅 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、境島村蚕種製造民家の建築群として存在価値と、伝統的建造物群保存地区(以下伝建という)としての存続の可能性を、行政関係者や地域の人たちにあらためて知ってもらうために、文化庁伝建部門の主任調査官梅津章子氏を招き勉強会を開催した。 勉強会は、研究代表者が境島村登録文化財活用推進協議会(田島達行会長)とともに企画して梅津主任調査官を科研費研にて招聘し、実施に当たっては群馬県文化財保護課及び伊勢崎市教育委員会に後援していただき、境島村登録文化財活用推進協議会の主催、横浜国立大学大学院都市イノベーション研究院の共催により9月9日(日)14時から16時までの予定で島村公民館で開催した。参加者は70名程度と見込んでいたが、伊勢崎市長・同教育長をはじめ伊勢崎市・群馬県の行政担当者および隣接する埼玉県側の蚕種製造民家所有者などを含めて85名もの方々が集ってくれた。梅津主任調査官は講演前に島村全域と隣接する埼玉県側の視察を行ってくれ、講演ではその知見も含めた伝建制度による島村地区の歴史・文化継承の潜在力と必要性を強調された。そのため講演後に地元住民から活発質問や意見が出され、講演会は30分以上延長される結果となった。 なお、上記勉強会に先立つ6月18日に境島村において田島弥平旧宅世界遺産登録9周年記念フェスタが伊勢崎市主催で行われ、研究代表者は研究室学生の協力を得て伊勢崎市教育委員会と連携して「クイズスタンプラリー」を企画・資料作成・実施まで協働して実施した。 また、境島村地区の登録文化財を増やすための活動として、金井義明家の呑山楼(画家金井烏洲のアトリエ)と田島幸子家主屋の実測調査を行った。 以上の内容は境島村登録文化財活用推進協議会発行の広報誌『推進通信』第10号・第11号に掲載された。また2023年度に発行された『推進通信』第9号ー12号の合併号を刊行した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
伝統的建造物群保存地区を考える上で、文化庁の担当部門の主任調査官に来所いただき、伝建制度の内容や島村地域の特徴に即した伝建の制度の活かし方などに関して、直接アドバイスいただけたことは、地域住民の認識向上だけでなく群馬県・伊勢崎市の行政にとっても大変参考になった。 また、伝建地区を具体的に考える上で、もっとも現実的な最小単位である新地地区において、蚕種製造家の伝統的住宅1棟(田島幸子家=本郷清美家)を実測調査することが出来たことは大きな前進であった。調査の際に棟木銘を確認し、昭和5年2月24日上棟の建築であることが明らかとなった。なお、新地地区に隣接する新野地区において金井義明家(主屋は登録有形文化財)の呑山楼(画家金井烏洲のアトリエと伝える)の実測調査に着手した。呑山楼は文化年間の建築と伝えるが、19世紀初期まで遡る例は島村地区では他に1棟しかない(天明年間の板倉)ないので、年代判断は慎重を有する。 島村地域の文化遺産の重要性を地元新聞『上毛新聞』の「視点:オピニオン欄」寄稿するする機会を得たことは、地域遺産への関心喚起の上で有効であった。 その一方で、登録有形文化財候補として調査を進めている2件の伝統的建築に関する所見等の作業は完成に至らなかった。 そのため、全体としてはおおむね順調と判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度は、科研費研究最終年度である。本研究の目的は、境島村地区における蚕種製造に特化した養蚕民家に関して、世界遺産田島弥平旧宅だけでなくそのバッファゾーンをはじめ地域総体の面的な保存継承を目指すために、行政と地域における共通認識を醸成する事にある。すなわち、2020年度以来の既往調査結果と活動を踏まえて、境島村地区に伝統的建造物保存地区制度を導入することによる、地域の歴史・文化を継承した活性化を目指す基礎認識を確立することにある。そのための調査研究活動として、以下の内容を2024年度に遂行する予定である。 まず、境島村地域における啓蒙活動に関しては、伊勢崎市と連携して世界遺産登録10周年事業において①記念イベントにおけるシンポジウムにおいて研究代表者は基調講演をおこない討論のコーディネータを務める(7月14日)、②記念行事において学生と共に「クイズスタンプラリー」を企画実施する(10月27日)。①は田島弥平旧宅を主テーマとするシンポジウムであるが、島村総体の学術研究(建築・考古・民俗・歴史・蚕種業)推進の重要性を強調し、実質的な討論につなげるつもりである。②は2023年度の実績を踏まえて、内容と対象地域の拡充を行うつもりである。 次いで、昨年度の建築調査の成果をもとに登録文化財を2件以上だせるように努力する。また、登録文化活用推進協議会総会(6月9日)において、新たな登録文化財の増補と世界遺産登録10周年記念事業における、地元と行政連携の重要性を説明する。また、上毛新聞の「オピニオン欄」への執筆において引き続き境島村の魅力発信に努める。 上記の活動を踏まえて、2025年度以降、境島村における伝建地区創設に向けた動きを確実なものにする機運を固めたい。そのために2024年度も登録文化財活用推進協議会と協働して『推進通信』合併号を編集・刊行して調査研究活動の公開を目指す。
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