2022 Fiscal Year Research-status Report
大工棟梁・立石清重の建築資料を用いた擬洋風建築の地方的展開に関する実証研究
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20K04902
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
梅干野 成央 信州大学, 学術研究院工学系, 准教授 (70377646)
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Project Period (FY) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 擬洋風建築 / 大工 / 近代化 / 建築史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、日本の近代化の初期の過程にあらわれた擬洋風建築について、その代表例である旧開智学校校舎(長野県松本市、明治9年建設、国宝)をたてた大工棟梁・立石清重(文政12年-明治27年)に関する建築資料の分析を通じ、地方的展開の過程を実証的に解明するものである。具体的には、建築資料を用いて立石が手がけた作品の全体像や建築活動の具体を把握するとともに、A)建築資料の分析とB)建築遺構に基づく解釈に取り組み、洋風建築の受容と擬洋風建築の展開の過程を捉える。 令和4年度には、引き続き、本研究の基礎となる立石の働き方や関係していた職人集団の通時的な変化を把握し、建築活動に関する考察を深めた。これをふまえ、以下、A)・B)に取り組んだ。 A)建築資料の分析については、旧開智学校校舎の建設以前および同時期の作品を対象として、擬洋風建築と解釈できる事例から「意匠」における洋風摂取の過程に関する考察を深めた。また、旧開智学校校舎の建設以後の作品を対象として、「意匠」とそれを形づくる「技術」に関する建築資料の分析を進め、とくに立石が建設に関わった裁判所の立面の意匠に着目し、その時代的傾向を把握した。 B)建築遺構に基づく解釈については、建築遺構に関する建物調査を行い、建築資料の分析で把握した擬洋風建築の「意匠」と「技術」の実態を把握した。とくに旧開智学校校舎について詳細な建物調査を行い、擬洋風建築の具体を捉えた。旧開智学校校舎の建物調査については、耐震補強主体工事にあわせて行うことができ、内外両面が大壁造の壁に対応した構法を詳細に記録した。また、壁内に潜在化していた柱材も観察することができ、その性質について記録を行なった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和4年度は、新型コロナウイルス感染症の流行の影響もあり、A)建築資料の分析に遅れが生じた。また、B)建築遺構に基づく解釈について、建築資料から抽出した作品の建築遺構の確認は終えたものの、そのうちの数例を事例とした建物調査については、旧開智学校校舎を除いて行うことができなかった。また、類例調査についても行うことができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
令和5年度には、引き続き、これまでに把握してきた立石清重の働き方や関係していた職人集団の通時的な変化をまとめ、建築活動の具体像を明らかにする。そのうえで、以下A)・B)についての考察を行う。 A)建築資料の分析については、引き続き、旧開智学校校舎の建設以後の作品を対象として、「意匠」とそれを形づくる「技術」に関する建築資料の分析を進める。とくに、裁判所関係の資料に着目しながら、引き続き整理と分析を行い、洋風建築の受容に関する考察を進める。 B)建築遺構に基づく解釈については、引き続き、建築遺構に関する建物調査を行い、建築資料の分析で把握した擬洋風建築の「意匠」と「技術」の実態を把握する。旧開智学校校舎の調査についても、継続して詳細な建物調査を行い、「意匠」と「技術」の視点から擬洋風建築の具体を捉える。また、建築遺構に対する解釈を深めるため、全国の擬洋風建築を対象に類例調査(5件程度)を行う。とくに、立石清重と同様に、地方で活躍した大工の代表例として挙げられる山梨県の松木輝殷や山形県の髙橋兼吉らの作品については、その成立背景の解釈も含めて類例調査を予定している。 以上A)・B)をふまえて、得られた成果を時系列で整理し、洋風建築の受容と擬洋風建築の展開を見通す。これらの成果については、まとまり次第、研究論文として公表する予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の流行によって、現地調査や類例調査を行うことが困難となり、中止した日程があったため、旅費等について次年度使用額が生じた。中止した 分の調査については、新型コロナウイルス感染症への対策を十分に講じて実施することを目指しており、次年度使用額はその旅費等にあてる予定である。
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Research Products
(1 results)